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小さな嫉妬心 4

「……お腹、すいてたんですか?」 せっかくのムードが台無しになり、リチャードはバツが悪そうに頭を掻いてコクリと頷く。 「それならそうと早く言ってくれれば良かったのに。蛍も、コーヒーしか出してないだなんて……。今はお節とお雑煮しか無いですけど、それで良かったら」 「オセチ??? なんだ、それは」 「日本のお正月に食べる料理ですよ」 興味津々と言った目を輝かせるリチャードの姿が何だか可笑しくて、壮馬はゆっくりと立ちあがるとキッチンからお節の入った重箱を持って来てダイニングテーブルの上に置いた。 「こっちに移り住んで長いんじゃなかったです? 食べる機会が無かったのかな」 「年末年始はずっと向こうで生活していたからな。こう言う伝統料理を一度食べてみたいと思っていたんだ」 「あぁ、なるほど。そう言う事でしたら……。口に合うかはわかりませんが、せっかくだから食べてみて下さい」 重箱の蓋をゆっくりと開けると、中から黒豆や伊達巻、海老などの色とりどりの食材が姿を現し、リチャードは思わず感嘆の息を漏らした。 「Wow! ジャパニーズフードは美しいな。 コレ全部ソウマが作ったのか?」 「まさか。全て既製品ですよ。雑煮は僕が作りましたけど……」 「ゾウニ?」 「外国の人に食べてもらった事なんて無いですから、口に合うかどうかはわからないですが」 席に着いたリチャードの前に戸惑いながらも雑煮を差し出す。不思議なものを見るような目で、雑煮とお節を見比べている姿は中々に面白い。 「お、おい。このニンジンはなんで花びらの形をしているんだ?」 「シイタケが☆になっているなんて凄いな」 「なんて透き通っていて美味いスープなんだ」 店で出てくるような立派な料理ではなかったが、リチャードは雑煮が余程気に入ったらしい。 物珍しげに観察しながら食べる彼の姿は新鮮で、あまりにも美味い、美味いと言って食べてくれるので壮馬はなんだか嬉しくなった。 家庭料理レベルでこんなに喜んで貰えるなら、また作ってあげてもいいかもしれない。そんな気持ちさえ湧いて来る。 何より、彼のリアクションが可笑しくて思わず頬の筋肉が弛んだ。

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