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秘密の自主練 

「おはようソウマ。今日も早いな」 壮馬がランニングから戻って来るとリチャードがゆっくり近付いてきた。 「誰かさんのせいで早くに目が覚めてしまったので、仕方なくですよ」 「俺のおかげ、の間違いだろ?」 睨んでも全く効果は無く、飄々とした態度に小さな苛立ちを覚える。 「そうですね。監督のお陰と言う事にしておきます。アメリカに来た早々、ホテルに連れ込まれるとは思ってもみませんでした」 正月のお礼がしたいのでこっち(アメリカ)で自主練をしよう。と提案されたのは1週間ほど前。最初は断ろうと思っていたのだが、日本に居てキャンプ前から祥太郎と顔を合わせるのは何となく気が引けて、メジャーの一級選手と触れ合うチャンスがあると言うリチャードの言葉に魅力を感じ、3日ほど前に渡米した。 彼に連絡を入れるつもりは無かったのに、飛行機を降りたら何故かリチャードが迎えに来ていて、夜は豪華なディナーに誘われ、気が付けばだいぶ前から予約していたと言うホテルに連れていかれて現在に至る。 「ハハッ、そうカリカリするな。カルシウムが足りないんじゃないのか?」 「監督の所為じゃないですか! 二日間もホテルに缶詰めなんて聞いてなかったです」 「いいじゃないか。時差ボケもせずに済んだんだ」 「それは確かにそうですが……」 時差ボケする暇がないほどリチャードに振り回され、生活リズムは確かに整ったように思う。 もしかしたら、自分に気を遣ってくれたのでは? なんて一瞬思ったのだが。恐らく違うだろう。

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