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秘密の自主練 3

「もう直ぐバレンタインだな」 朝食を終え、温かいコーヒーを飲みながら一息ついている時にリチャードがふとそんな事を言いだした。 目の前には、デザートのチョコレートムースが二つ並んでいる。 まだ1月だし、バレンタインまでもうすぐと言うには早すぎるような気がしないでもないが、確かに巷では既にバレンタイン商戦がチラホラと始まっているのを見掛けることが多くなった。 「そうですね。まぁ、男の僕には関係ない話ですが」 「なんだ、ソウマは誰にもやらないのか?」 「どうして僕がチョコを配らなきゃいけないんですか」 「どうしてって、そりゃ……お前から欲しいと思っている奴はいるんじゃないか?」 頬杖を突きながらジッと見詰められて、壮馬は思わず噴き出してしまいそうになる。 これはもしかしなくても、暗に自分からのチョコを期待しているのではないだろうか? そんな思いが頭を過り、ほんの少しの悪戯心が湧いて来て、壮馬は何食わぬ顔をして食後のコーヒーにミルクを注ぎながらうーんと、わざとらしく考える素振りを見せる。 「そうだなぁ、祥太郎君には毎年あげていたから今年もあげてみようかな? とは、思ってます」 「ショウタロウだけか?」 それを聞いた瞬間、リチャードは眉間にギュッとしわを寄せ、あからさまに不満そうな顔をする。 「後は考え中って事で」 「……考え中、ね」 複雑そうな表情のまま、納得がいかないと言わんばかりの態度でリチャードは目の前のデザートに手を伸ばした。 その仕草が、あまりにも子供っぽ過ぎて笑ってしまいそうになるのを必死に堪え、平静を装いながら壮馬は問いかけた。 「……監督は甘いものが好きなんですか?」 「いや、そこまで好きって程じゃない。まぁ普通程度には食べるが……ソウマから貰えるものなら何でも食うぞ」 「それって……」 やっぱり、壮馬からの贈り物を期待しているのだろう。なんてわかりやすいんだ。

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