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秘密の自主練 4

「何笑ってるんだ」 「笑ってなんかいませんよ」 「頬の筋肉が弛んでるぞ」 子供っぽい事をしている自覚があるのかリチャードがわざとらしく不貞腐れた顔をした。その表情が妙に子供っぽく見えて壮馬はクスクスと笑ってしまう。 時々見せるこういう子供っぽさがリチャードの魅力の一つでもある。堅苦しくなくて、自由で、一緒にいると気持ちが楽になる。 そう言う面で言えば、祥太郎と似ているかもしれない。 ひとしきり笑い合い、お互いの笑いが引いた時にふっと、間が出来た。 「まぁ、一応、考えておきます。もしかしたら忘れてるかもしれませんが」 「な……っ」 「冗談です。ちゃんとあげますよ。多分」 まだ何か言いたげな顔をしていたリチャードだったが、尻ポケットに入れられたスマホが告げる着信音でそれは遮られてしまった。 「Hello……」 コーヒー片手に英語をスラスラと話す彼はやはり様になっている。 普段は流暢な日本語を操る彼だが、やはり母国語は英語なのかと今更ながらにぼんやりと思う。 日本の野球が好きで、若い頃から日本でプレイして来た超一流の国民的なスーパースター。メジャーでやろうとは思わなかったのだろうか? 性欲お化けだし、性格にも少々難があると思うが、それでも人を惹きつける魅力を持っているのは確かだ。 それなのに、何故? どうしてリチャードは日本に拘り続けるのだろう? 日本の野球なんて年々レベルが下がっているのに……。 チョコムースを口に含みながら思いを馳せていると不意に、スマホを耳に押し当てながら会話をしていたリチャードと目が合った。

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