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秘密の自主練 5

壮馬は慌てて視線を伏せた。つい、考え事をしながらリチャードの事を見つめてしまったが、気付かれなかっただろうか? 一つ咳払いをして、食べかけのチョコムースを全て口の中に押し込んだ。 食べたものを片付けテーブルを拭いている壮馬の横でリチャードは電話の主と楽し気に会話を続けていた。 それからどの位経ったのだろう? ソファに座り何気なくテレビを眺めていると、電話を終えたリチャードに後ろから突然ふわりと抱きしめられた。 そのまま項に顔を埋められ、熱い吐息と共に首筋にキスが落とされビクリと肩が揺れる。 「……電話はもう済んだんですか?」 さり気なく手で押しのけながら問い掛けると、リチャードは小さく苦笑して画面の暗くなったスマホをテーブルに置いた。 「あぁ、待たせて悪かったな。……ソウマ」 「別に。待ってませんし僕に謝る必要なんて……」 「そうは言っても、俺が電話をしている間そわそわと落ち着きがなかっただろ。まるで飼い主を待つ犬みたいだったぞ」 「……犬とは失礼ですね。僕は別にそんなつもりじゃ……」 そんなつもりはなかったのだが、まさか気付かれていたとは思わなかった。 「フフフッ、冗談だ。からかったのは悪かった。だが、気にするな。そういう所が可愛いと思ったんだよ」 「また、そんな事を言って。僕は男なんですから可愛いなんて言われてもちっとも嬉しくありません」 ツンと顔を横に向け抵抗していると、耳を軽く噛まれた。舌の先で耳の後ろをなぞられて、肌が粟立ち、ジンと腰が痺れる。 「や……、んッ」 「可愛いよ、ソウマは。本当に可愛くて喰っちまいたい位だ……」 耳元で囁かれ、低温が腰にくる。半ば条件反射のように体が熱くなり、下腹部が変化しつつあった。 「じ、冗談はやめてくださいっ! 今日は、マイケルと会わせてくれるって約束だったじゃないですか」 約束の時間まであと1時間以上あるが、流石にリチャードの友人で大リーガーでもある彼に初めて会うのに、その前まで体を許すつもりはない。 流石にリチャードもそれはわかっているのか、小さくため息を零すとゆっくりと身体を離した。 「……仕方がない。準備するか」 「初めからそうしてくださいよ」 リチャードの手のひらで転がされているようで何となく悔しいが、壮馬は頭を切り替えるべく軽く顔を振って大きく息を吐いた。

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