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6 紘一視点

紘一が通う大学は、広い敷地と緑が自慢だ。 要するに田舎なのだが、学部数と生徒数が多いため、敷地内には多くの人が行きかっている。 その中を、大学内に三つあるフードコートのうち、一番広い所へと紘一は足を運んでいた。 (やっぱ、秋はいいな) 両脇を銀杏の木で埋め尽くされた、人通りのない道を歩いてく。今は緑だが、もう少し秋が深くなると、ここも黄色に彩られるのだろう。 しかし、紘一が好きなこの通りは、人通りが少なくてロケーションも良いので、恋人同士の憩いの場にもなる。ちらりと見えた校舎裏では、男女が抱き合って何か話していた。 男の方が見覚えある髪の色だったので、思わず二度見すると、勘違いだったらしい、雰囲気も体躯も全然違っていた。 しかし、遠目からは女子が好きそうな顔をしているな、とそんな感想が漏れる。 (あの子、怪我大丈夫だったかな。病院も行かなかったし) 細く柔らかいカフェオレ色の髪は、秋の景色を連想させる。 いちゃついている男は金髪だったのに、どうして間違えたのだろう、と紘一は自嘲した。 あれから、何故だか分からないけどあの綺麗な少年を思い出してしまう。 容姿の印象が強すぎたのか、すぐに美形三人組と比べてしまうのだ。 (結局、服は宅配で返ってきたしなぁ) 少しは会えるかもと期待していたが、貸していた服は翌日綺麗になって返ってきた。 流れるような字で書かれた礼状が入っていたが、それはあの時名刺をくれた竜之介の字で、荷物の送り主の名前もそれになっていた。 だから、少年の名前は分からずじまいだ。 (名前を知って、どうにかするって訳じゃないけど) 竜之介にしろ、黒髪の男にしろ、普通じゃないくらい綺麗な人だったが、あの少年はまた別だった。 ただ、その容姿と怪我とがミスマッチで、どうしようもなく気になってしまう。 「あ、いけね」 ぼうっと歩いていたら、友人を待たせていることをすっかり忘れてしまっていた。急いで屋内に入り、フードコートへと足を運ぶ。 「あ、柳ー。こっちこっち」 着くなり席から大声で呼ぶのは、同じ学年、学部の吉田だ。短い髪に、人懐こい笑顔を浮かべて手を振る彼は、待たせたことを怒っていないらしい。まぁ、そんなことを気にする性格でもないのだが。 「悪い。何だ? 用事って」 向かいの席に座るなり要件を聞き出すと、吉田は顔の前で両手を合わせた。 「実は、頼みがある……」 「断る」 「早っ! 何で!?」 言い終わらないうちに紘一が断ると、吉田はオーバーリアクション気味にこけた。 おおざっぱではあるが、愛嬌があって憎めない性格の彼だが、吉田のお願いとなると面倒なことが多い。 「お前のお願いはろくなことがない」 「そんなこと言わないで。今日の飲み会、頭数足りなくてさぁ」 上目使いで両手を合わせながら頼んでくる姿は、甘え上手な彼ならではの技だ。 男にやられても嬉しくないんだけど、と紘一は思うが「このとーり」と頭を下げる吉田には悪意はない。だからついつい許してしまうのだ。 「何でただの飲み会に頭数が必要なんだ。合コンならそうやって言えば良いだろ」 「だって……お前そういうの嫌だって言ってたし」 知ってるなら他を当たれよと思うのだが、そうもいかないらしい。 「女子側が、俺の知り合いが来るなら、柳も来るもんだと思ってたらしいんだ。俺もこの合コンは成功させたい。な? 協力してくれっ」 お前、人気あるんだよ、と吉田に言われ、再び頭を下げられる。合コンを成功させたい理由は、彼にも目当ての女の子がいるのだと分かり、条件付きで参加することにした。 「お前の奢りなら」 「やった! ……え?」 反射的に喜んだらしい吉田は両手を振り上げたが、言葉の意味を理解してしぶしぶその条件を飲んだ。 すると、視界の端で金髪がちらついた。思わずそちらを見ると、先程校舎裏でいちゃついていた男だった。さっきの女の子はいなかったが、代わりに別の女の子を腕にぶら下げている。 ストレートの髪を顎の辺りで切り、横の髪はそこから後ろにいくにつれて短くなっている。容姿も服装も、ビジュアル系かと思うほどだ。 黒い服に白い肌が映え、薄い唇や真っ直ぐ伸びた鼻梁、カラーコンタクトでもしているのか、金色の瞳をしていた。 しかし、ただの美形ではないことはその鋭い眼つきで分かり、得体の知れない不安を抱く。 「なぁ、アイツ……」 綺麗で怖い、そんな初めての感覚を持った紘一は、目の前の友人に聞いてみた。 「ああ、アイツを知らないのか。礎レイって、合コンなんかしなくても、入れ食い状態の俺らの敵だ」 やはり知っていた吉田は、何故かかなりの情報屋で、いろんな人とのパイプがある。 滅多に嫌な顔をしない吉田だが、吐き捨てるように言ったのは、本当に嫌いなのだろう。 「ふーん……」 薄い笑みを浮かべているレイ。しかしその目には嫌な光が宿っているように見える。 「ま、俺らと関わることはねーよ」 吉田が伸びをしながら言う。それもそうだな、と納得して合コンについて詳しい話を聞いた。

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