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8 和馬視点

一段と強い風が通り過ぎた後、和馬は首にぶら下げてある勾玉を握った。祖母が作ってくれたお守りで、何かあると握る癖が付いている。 琥珀でできていて、よく見る飴色のものではなく、水草のような緑色をしたグリーンアンバーだ。 「……危なかった」 和馬は大きく息を吐く。 紘一と出会ってから、和馬は彼のことを春の風の人、と認識している。 天使族はその特殊能力から、人それぞれが持っている風を見ることもできるのだ。そしてもう一つ、他人を意のままに操る力も持っている。 もう少しで、紘一の力を奪う所だった。それも彼の風は和馬と相性が良い。無意識のうちに力を欲し、そんなにも飢えているのか、と落ち込む。 先日罠に嵌められて、封印を解かれてから和馬の体調はおかしくなった。何もしなくても体力が削られていくし、時々、ほんの一瞬だが自分の意思で体が動かせなくなることがある。 これは封印を解かれた者によって、何かしらの術をかけられたとしか考えられない。 (それに……) また強い風が吹いた。 あれから黒い(もや)のような邪気が、あちこちで見られるようになったのだ。さっきから消してはいるが、どこからか湧いて出てくる。 これも和馬の封印を解いた、礎レイの仕業なのだろうか。 十年前。他人を操れる力を悪用し、一族までも手に掛けた男。 もちろん、今までに私利私欲に溺れ、自分のために他人を操る一族はいなかったとは言えない。 しかし、レイはまた別だ。金、権力、力、女――欲しいものを得るために、一族の力を搾取していったのだ。 膨れ上がるレイの力に怯えた仲間は、逆らうこともできずに殺されていった。竜之介や佑平の家族もだ。 そして、レイは和馬の中に眠る力に執着し始める。それに気付いた残りの天使族は、和馬を守るために力を尽くした、が、それもレイにあっけなく搾取されてしまう。 その中には和馬の家族もいた。目の前で両親、祖母が死んでいくのを見て、和馬は全てのリミッターを外す。 その時のことは、和馬はよく覚えていない。気が付いたら胸元の勾玉が火傷するほど熱くなっていて、幼馴染みの竜之介と佑平だけが残されていた。 二人の証言で、レイが和馬の中に封印されたことを知ったのは、その後のことだ。 そして最近まで、彼は大人しくしていた。 しかし先日和馬に怪我を負わせ、隙を作ることに成功。傷が治らないうちに用意したブレスレットも、本当はずっと前から準備して機会を窺っていたのだろう。 これは完全に和馬の落ち度だ。早くレイを捕まえて、完全復活する前にもう一度封印するか――殺すかしなければならない。 とりあえず、このまま邪気を浮遊させていると、人間にも悪い影響を与えてしまう。竜之介たちに祓うのを手伝ってもらい、自分はこっそりレイの居場所を探るか、と考える。

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