10 / 42

9 和馬視点

家に帰ると、佑平がちょうどリビングから自室へ引き上げるところだった。しまった、と思った時はもう遅く、和馬の服装を見て、彼は目を細める。 「……どこ行ってた?」 低い声は、明らかに和馬を咎める色を含んでいる。和馬は視線を泳がせた。竜之介はもう部屋に引っ込んだのか。 嘘があまりうまくない和馬は、そのまま黙るしかなかった。ため息をついた佑平はこちらに来ると、和馬の顎を軽く持ち上げ、瞳を覗き込む。 「……怪我はなさそうだな。だが、少し『気』が乱れてる」 レイが何かやったのか、と鋭い視線で尋ねてくる佑平は、そのまま和馬の頬に触れて乱れた気を治そうとした。 それに気付いた和馬は素早く彼から離れる。 「い、いいよ佑平。そこまでしなくても」 佑平は、レイが和馬の中から出て行ったことを知らない。けれど、中にいるのも許せない、とも思っている。 家族を殺した一番憎い相手が、この世で一番愛する人の中にいるのだから。 告白されたのは、あの悲惨な事件があった後のことだった。お前のことは死んでも守ってやるからと言われて、返事を求められ、今日まで保留にしたままだ。 自分でもずるいと思っている。いつまでも待つという佑平に甘えているのだ。でも、中途半端な気持ちで答えたくはない。 「佑平。そろそろ休もう?」 「……」 話を逸らした和馬に納得いかないのか、何か言いたそうに見てくる佑平。 和馬は少し考えたのち、自ら近寄って佑平の胸に額を当てる。 「……っ」 「そのまま」 抱きしめるのはダメだと、声で制す。近くにある心臓の音が早くて、ずるい手を使ってごめんね、と心の中で謝った。 「大丈夫、僕は死なないし、佑平も竜之介も死なせない。……今日は遅いから寝よう。な?」 「……ああ」 ゆっくり離れると佑平の精悍な顔立ちが目に入る。 彼が自室へ向かったところを見届けてから、自分も部屋に戻った。

ともだちにシェアしよう!