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10 和馬視点
そして数時間後、和馬は夢を見た。
夢を見ていると認識するのに時間がかかったのは、景色が自分の部屋だったからだ。
和室に机と本棚。必要最低限のものしかないシンプルな部屋は、天使族の長を引き継ぎ、家業を始めた頃から変わらない。本棚には天使族に関する書籍や、陰陽道、占い、お祓いなど仕事に関するものばかりだ。
和馬は部屋に敷いた布団の上に寝転がり、上に覆いかぶさっている人物を睨みつける。
「何故お前がここにいる」
金髪の、独特な髪型をした男がニヤリと笑った。
「久々に会えたのに、その言いぐさはないだろ?」
和馬の腕は男の手で押さえられており、不快極まりない体勢だ。
「よく言う。この機会をずっと窺ってたくせに……レイ」
レイは切れ長の目をスッと細めた。人間離れした美形のためか、表情のちょっとした変化でも人を惹きつける。
「僕から出て行ったくせに、力は僕と共有させる術……『契 』の応用か」
それは想いが通じ合う者同士が、文字通り運命共同体となる術だ。
しかし、レイは唇の端を上げる。
「さすが、頭が良いな。でも、応用は応用だ。これは、力の共有じゃなく……」
そう言って、レイは和馬のお腹に手をあてる。ぞわっと悪寒がし、逃げなければと手足を動かすが無駄だった。
「俺が一方的に、お前の力を使えるようにしたんだ」
「……っ!」
お腹にあてられた手から、無理やり力がねじ込まれ激痛が走る。レイの瞳が金色に輝き、人を思い通りに動かす術を発動していることが分かった。
こうなれば、レイの力を上回らない限り、逃げるのは不可能だ。
弱らせたのはこのためだったか、と和馬は思う。そして、完全復活するまで、自分を殺さない程度に力を搾取するのだ。
「誰が、お前なんかにっ、い……っ!」
「お前の意見なんか聞いてねぇ。抵抗しないでさっさと緩めろ」
ぐりっと、硬い穴を力任せにこじ開けられ、早くも意識が遠のきそうになる。それでも抵抗していると、唐突に首筋を舐められた。粟肌が立ち、その隙をついてレイは力の楔を最奥へと突き刺す。
「あああああっ!」
目の前に火花が散り、視界が暗くなりかけた。痛さと異物感と圧迫感に呼吸さえままならない。
レイが薄く笑った。
「さすが、天使族一始祖に近いと言われただけあるな。ここに入れただけでも力が溢れてくる。だが……」
「ん……っ」
楔が刺さったまま奥を探られる。力の源がどこかにあり、それを刺激すると、繋がった者に力を与えることができるのだ。
無遠慮に中を掻き回すレイに、心の中で呪いの言葉を吐く。そうでもしないと、その痛みに耐えられなかった。
「ははっ、良い表情するね! 俺はね、和馬。お前をこうやって組み敷くのが夢だったんだよ」
びくん、と和馬の背中が浮いた。「ここか」とレイが呟く。最奥の、一番敏感な場所にやんわりと触れられ、和馬は声を上げそうになった。
お腹の上の手が、ゆっくりと握られるのと同時に、その力の塊も握られ、神経に触られたみたいに、ビクビクと体が痙攣する。
「覚えておけ」
レイはそれを握ったまま、声を殺して耐えるしかない和馬を嗤う。
「お前は、贄 だ」
「……っ!!」
同時に力をずるりと引き抜かれ、あまりの衝撃に和馬はそのまま意識を手放した。
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