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12 紘一視点
広い大学の敷地内で、見覚えのある金髪に出会えたからだ。よく見ると、一緒に黒髪の男も一緒にいる。だが、和馬はいなかった。
「あれ? 何であの人たちがここに……」
彼らに気付いた吉田は、足を止める。
「……って、知ってるのか?」
意外で驚くと、俺の情報網なめんなよ、と返ってきた。
「金髪の方は一次期『イケメン占い師』として雑誌にコラムとか書いてた、木下竜之介。黒髪の方はその親戚でアシスタントの有馬佑平。ちなみに二人とも十九歳。一族みんな占いやお祓いができるその道のエキスパート集団で、今は祓い屋として活動してるんじゃないかな」
すらすらと彼らの素性をそらんじる吉田を、紘一は初めてすごいと思った。しかし、気になるのは彼らよりも、あの凛としていながら儚げな少年だ。
「じゃあ、結城和馬って子は知ってるか? あの人たちの仲間みたいなんだけど」
ちらりと紘一は竜之介たちを見た。彼らが動きだし、こちらに向かって歩いて来たからだ。
「……さあ? 結城家は確かに一族の名前だけど、名前まではなぁ……あ、でももしかして……」
「こんにちは、柳紘一さん」
あと少しで和馬の情報が聞けると思ったところで、竜之介が声を掛けてきた。タイミング悪いなと思いつつも、笑顔で対応する。
「こちらの生徒さんだったんですね。こういう形でお会いできて嬉しいです。あれからきちんとお礼もできなくて、申し訳ないです」
竜之介はにこやかに笑った。佑平の方は相変わらず感情が読めない表情だったが、紘一は気にしないことにする。
「あれから変わったことはありませんか?」
声を潜めて意味深に竜之介は尋ねてくる。彼は和馬を助けて名刺をもらった日、何かあれば連絡をくれと言っていた。何か関係があるのだろうか。
不思議に思いながらも何もないと告げると、彼は「では、本当に風の導きですね」と笑った。
「あの、今日和馬は……?」
しかし、紘一が和馬の名前を出した途端、竜之介は視線を鋭くする。
「その名前を、どこで知りましたか」
竜之介の眼鏡の奥の瞳が金色に光る。その視線に捕まると途端に息苦しくなり、何故か逆らえなくなってしまうのだ。
「え、いや……本人に」
綺麗な人の、感情を乗せない顔は怖い。紘一の答えを聞いた竜之介は、視線を外し、眉間に皺を寄せた。
「……あの人は……また勝手に出歩きましたね」
どうやら和馬が黙って出歩くのは、いつものことのようだ。まぁ良いでしょう、と納得したらしい竜之介は、紘一ににこりと笑う。
「竜之介、ここでは目立つ」
何かを警戒しているのか、佑平はきょろきょろと辺りを見回して、小声でそんなことを言った。それを聞いた竜之介は、それもそうですね、と話題を切り替える。
「すみません、私たちは仕事中ですので、これで失礼しますね。それと……」
彼は紘一の隣にいた吉田にやっと視線を向けると、その金色の瞳でじっと見つめた。
「吉田さん、世の中には科学で説明できないものもあります。あまり興味本位で首を突っ込まないよう、預言者として言わせていただきますね」
口調は柔らかだが言うことははっきりしている竜之介の言葉に、自分の名前と考えていることを当てられた吉田は目を丸くする。
そして、そう告げる竜之介が単なる人ではないことを見せつけられて、紘一は鳥肌が立った。
その後竜之介たちと別れた紘一は、しばらくその場で呆然としていた。
「……って、こええええ、すげー」
呪縛が解かれたように喋り出した吉田に、紘一もハッとする。
同じ感想を持っていた紘一も、彼の言動にただならぬものを感じた。
言葉一つひとつに温度があるような感じだ。和馬や自分のことを心配していた時は穏やかだったのに、ひとたび警戒すると途端に周りの空気も冷たくなるような体感がある。
そうされると普通の人は近づくのも難しくなるし、話しかけようという気すら起こさせないだろう。
(目立つ容姿だし、自然にそういう対応が身についたのかな)
竜之介は一見すると女性にも見間違えそうだ。おまけに物腰も柔らかいので、勘違いされやすいのかもしれない。だから彼にとって必要ない人間は、ああやって締め出すのだろう。
「あれが木下竜之介の実力かよ。世の中には恐ろしい人もいたもんだ。……と、いう訳で、命中率99パーセントの彼にあんなこと言われたら怖くなったので、中止だ」
「……」
賢明な判断をしたと、紘一は思った。
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