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23 紘一視点

「レイは和馬の力さえ手に入れば、自由に遊んで暮らせると思っていたらしい。だが目の前で家族を殺された和馬は、実力以上の力を発揮した。九歳の子供に封印されるなんて、レイも思ってなかったようだしな」 佑平の言葉に紘一は、改めて和馬が稀代の祓い屋だと呼ばれる理由を認識した。しかし、それほど圧倒的な力を持ちながら、レイの抵抗があったせいで、封印するのがやっとだったらしい。 「和馬は俺たちを守りながら一人で戦っていた。俺たちがいなければ、カタを付けられたはずだったのに」 だから今度は命懸けで和馬を守るのだ。紘一は若い天使族の絆に、言葉を失くしてしまう。自分はその中には決して入れない、そう思うと何だか悔しい。 「ただ……」 佑平はこの時初めて、紘一の顔を正面から見つめた。男から見てもかっこいいと思う精悍な顔立ち。意思の強い瞳は光を失わない。 「あなたと和馬は力の相性が良い。天使族以外でそういう人間は稀だ。だから和馬を大事にしてやってくれ」 「ちょ、っと待て。それってどういう意味だ?」 まるで自分の気持ちを見透かされているような言葉に、紘一は慌てた。しかし佑平は静かに紘一を見返す。 「そのままだ。俺は和馬が幸せであればそれでいい」 「幸せって……」 それなら、和馬が自分といることが幸せだと言っているのだろうか。混乱し始めた頭で一つ思い浮かんだことは、これだ。 「あんたは、和馬のことが好きなのか?」 その問いに、佑平は静かに答える。 「……愛している。だが、それは俺だけじゃない。だから、和馬が選ぶべきなんだ」 「…………その選択肢に俺も入っていると?」 佑平はうなずいた。和馬が誰かを選べば、レイとの決着もつく、と。 紘一は長いため息をついた。あやふやだった自分の気持ちを、こういった形で自覚させられるとは思ってもみなかった。 「相性が良い者同士は、触れるだけで力を回復、あるいは高めることができる。もし和馬があなたを選んだら、協力してやってくれ」 「待ってくれ、あんたはそれで本当に良いのか?」 自分だったら、同じ人を好きなライバルにこんなことは言えない。 佑平はやはり変わらない瞳でまっすぐこちらを見つめる。 「それが和馬と天使族のためなら。どうせ天使族は俺たちの代で終わる。だからレイだけは何とかしておかなければならない。この地で暮らす、人間のためにも」 紘一は唖然とした。彼らは自分とは違う次元で生きている。守るものの大きさが違うのだ。だったら尚更、自分がその中にいるのは場違いな気がしてならない。 「無理強いはしない。和馬はあなたが首を突っ込むことを恐れている。だから強力な結界があるここへ閉じ込めた。俺はそう感じている」 それが和馬の意思だとしたら、自分は彼にとってどんな存在なのだろう。 「……和馬はどこに行ったんだ?」 それを確かめるために和馬に会いたい。そう思って尋ねると、佑平は静かに首を横に振った。 「竜之介の気が立ってる時はそっとしておいた方が良い。アイツは和馬に何かあったら俺ですら殺すだろうから」 そんなことを聞かされたら、今すぐこの部屋から飛び出したい気持ちを抑えなければならなかった。

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