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01-7.
「なにをお望みですか」
レオナルドは表情一つ変えなかった。
相手が求める条件を聞きだすことが今回の交渉の本来の目的だ。
「俺にとっても侯爵家にとっても大事なことだ」
曖昧な答えだ。
それに対して突っ込みを入れることもせず、レオナルドはジェイドの言葉を待つ。
「なんだと思う?」
ジェイドはレオナルドの顔を見つめながら問いかける。
視線を合わせてくるのは意図的なものだろう。反射的に目を反らしたレオナルドは考えるような仕草を見せる。
「伯爵領の権利でも根こそぎ奪うおつもりですか?」
伯爵領の全てを奪われたとしても、侯爵家にとっては荷物を抱えるだけでしかない。しかし、伯爵家の人間の尊厳を踏み弄ることを目的としているのならば、その荷物も問題はないと抱えてしまうことだろう。
「それとも、多額の慰謝料を請求して破産に追い込むつもりでしょうか?」
どちらもありえなくはない話だ。
「伯爵領にあるものには限られています。可能な限り、対応させていただきますが、条件を提示していただけなければ困ります」
レオナルドは限界だと言いたげな表情を浮かべて言った。
……無難な答えだっただろう。
伯爵家に非がある為、丁寧な対応をしているものの、意図のわからない会話に振り回されているだけだった。
……時間を引き延ばされているだけな気がする。
日頃から他人に振り回される経験がないレオナルドは疲れてきていたのだろう。ジェイドがその言葉を待っていたと言わんばかりに口角を緩めたのを見逃していた。
「条件を教えてやろうか」
「そうしていただけると助かります」
レオナルドはわざとらしく疲れたような表情を浮かべた。
それに対してジェイドは余裕そうだ。
「簡単なことなんだけどな。引きこもりのお坊ちゃんにはわからなかったか? 同情するよ。こんなに簡単なこともわからないなんてな」
ジェイドは立ち上がり、レオナルドが座っている場所に向かって歩き始める。
それに対し、レオナルドは諫める言葉を口にすることもなかった。
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