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03-1.
* * *
「すぐにまた来るからな」
このやり取りは何回目だろうか。
「今度はデートしような」
伯爵邸唯一の出入り口である門の外に止められているサザンクロス侯爵家の家紋が彫られた馬車に乗り込む直前になり、名残惜しくなったのか、ジェイドはレオナルドを抱き締めて離そうとしなかった。
「毎日、手紙も送るから。レオナルドも返事をくれよ」
……暑苦しい。
筋肉質の男性は体温が高いと、以前、セドリックが文句を言っていたことを思い出した。
「坊ちゃま、そろそろ、出発しましょう」
馬車を走らせる御者を任せられている侯爵家の使用人は、恐る恐る、声をかけた。御者の言葉はジェイドの耳に届いてはいるのだろうが、聞こえないふりをしてレオナルドを抱き締めたまま、動こうとしない。
「使用人を困らせるな」
レオナルドは呆れたように声をかけた。
それに対して、ようやく、動いてくれるだろうと安心した顔を浮かべる御者は、すぐにでも馬車を走らせることができるように扉の付近で待機をしている。
「さっさと帰れ」
突き放そうとするのだが、体格差があり、動かない。
「もっと、名残惜しんでくれよ」
レオナルドの態度が不満なのだろう。
ジェイドは少しも離れたくはないのだと全身で訴えてくる。
「惜しむ必要がないだろ」
その場で繕った言葉を口にしてもジェイドは納得しないだろう。
それを知っているかのように、レオナルドは態度を変えることはなかった。
「どうせ、すぐに遊びに来るんだろ?」
「……仕事を終わらせたらすぐに来る」
「急がなくていいぞ。俺はここから出られないからな」
納得したのだろうか。
それとも、これ以上は時間をかけることができないと諦めたのだろうか。
「休みの日には毎回会いに来てもいいか?」
「毎回は止めろ。迷惑だ」
レオナルドは迷惑そうに眉を潜めた。
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