31 / 155

03-3.

 ……嫌だな。  それなのに、なぜだろうか。  ……会えなくなるのは嫌だな。  目は逸らされない。  考え事をしていたからだろう。距離が近づいていることにレオナルドは気づいていなかった。 「んっ」  唇が重なる。  昨日と同じように唇が合わせられるだけの軽い口付けだった。 「キスをするのにちょうどいい大きさだな」  ジェイドの言葉に対し、反射的に平手打ちをしようとレオナルドは手を振ったが避けられた。 「またな、レオナルド」  離れようとしなかったことが嘘のように上機嫌で背を向けたジェイドは、馬車に向かって歩き出した。  ……なんなんだよ、彼奴は!!  威嚇をするように声を出せば、すぐにでも戻ってくるだろう。  時間がないのだと全身で訴えてくる御者の為にも、レオナルドの貞操を守る為に余計なことを言わないことが一番だ。  ……腹が立つ。  馬車に乗り込む間際、ジェイドは振り返った。  それから貴族らしからぬ笑顔で手を振り、帰りたくないと駄々を捏ねていたとは思えない態度で馬車に乗り込んでいった。 「……疲れた」  御者はレオナルドに頭を下げて、すぐに馬車を走らせた。  それを見送ることになったレオナルドは大きなため息を零す。  ……今年の社交界、免除されないかな。  使用人や手練れの護衛騎士を同行させることを最低条件として、伯爵領内を移動することはある。しかし、ほとんどは伯爵邸の内部で過ごしているレオナルドは他人と接する機会がほとんどない。  今日のような相手に振り回される日は何年振りだろうか。  研究に明け暮れて徹夜漬けの日々を送るよりも疲れた気がした。

ともだちにシェアしよう!