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01-7.

「……違う」  アルフレッドは脅迫された時の出来事を思い出したのだろうか。 「本当は、サザンクロス侯爵家に脅されていたんだ。ごめん、兄さん。俺が、脅しなんかに屈さないで、本当のことを言えていたら……」  それはレオナルドの婚約を邪魔する為の嘘ではない。  伯爵邸にいるのにもかかわらず、アルフレッドは周囲を見渡した。脅迫を受けていると打ち明けたことが相手に伝わるのを恐れているのだろう。 「何回も、何回も、呼び出された」  アルフレッドはレオナルドに縋りつくかのように声をあげる。 「俺が脅迫されていることを言わなければ! そうすれば、兄さんたちには手を出さないって! 彼奴はそう言っていたのに!」  アルフレッドの手が震えている。 「全部、嘘だったんだ!」  恐ろしい思いをしたのだろうか。 「レオ兄さん。ごめんなさい。俺のせいでこんなことになって……」  数か月前に成人を迎え、王立第四騎士団に所属をしているとはいえ、大事に甘やかされて育った末っ子である。  レオナルドと同じように伯爵邸の中で宝物を扱うように育てられ、学院にも通うことなく、外の世界に飛び出した。世間知らずのお坊ちゃんであるアルフレッドは都合よく扱われ、利用されてしまったのだろう。  ……ジェイドの言っていたのは、こういうことだったのか。  アルフレッドの話を聞き、レオナルドは納得してしまった。 「ジェイドはアルが侯爵家から脅迫を受けていたことを知っているのか?」 「……知っていたと思う」 「確信はないのか?」  レオナルドの質問に対し、アルフレッドは頷いた。 「そうか。侯爵家の人間が脅迫をしてきたのか?」 「侯爵家の手紙が送りつけられたんだ。それで、あの日に過ごした相手がジェイド・サザンクロスの婚約者だって知ったんだ!」  元婚約者と過ごした証拠を確保されていたのだろう。  レオナルドはアルフレッドの話を聞き、困ったようにため息を零した。  ……条件を受け入れなければ、殺人に手を染めることも厭わない様子だったことを思えば、脅迫をしていても何もおかしくはないか。  大前提からおかしいことばかりなのだ。  レオナルドとジェイドの婚約は、不自然なほどに速やかに行われた。

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