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01-8.
婚約が破談になった元凶である伯爵家の次男と婚約を結ぶと提案したところで侯爵家が受け入れるはずがないと考えるのが一般的だ。
少なくとも、婚約を結ぶことを了承したその日のうちに成立してしまうのは通常ではありえない。
そのことを考えるとアルフレッドは都合よく利用された可能性が高い。
「アル。俺にはどうすることも出来ないのはわかっているだろう?」
考える必要もなかった。
「脅迫をされていたとはいえ、相談をしなかったアルが悪い」
伯爵家は侯爵家に逆らえない。
ただでさえ、慰謝料の請求を撤回してもらったのだ。
「酔った勢いで知らない相手と夜を過ごすなど迂闊な真似をするから、そういう目に遭うんだ」
脅迫をされていたとしても非があるのはアルフレッドである。
侯爵家が動き出す前に打ち明けてさえいたのならば、手の打ちようがあったかもしれないが、何もかも手遅れだった。
「それでも、可愛い弟が泣きそうな顔をして頼ってきているんだ。何もしないわけにはいかないな」
レオナルドはアルフレッドに笑いかける。
「ジェイドを説得してみるよ」
私的な理由で脅迫をしていたのならば、説得できるかもしれない。
「話は聞いてもらえると思う。だから、心配をするな」
……アルフレッドが引き起こしたことに関しては手を引いてくれるだろう。
その為に条件を受け入れたのだ。
「……ごめん。レオ兄さん」
アルフレッドは項垂れた。
それから言いにくそうに何度も口を動かし、ようやく、決心がついたように勢いよく顔を上げた。
「もう一つだけ我儘を聞いてほしい」
末っ子として甘やかして育てられたからだろうか。
問題を解決すると同時に新しい問題を運んでくる。アルフレッドの悪い癖ともいえる言葉を聞き、レオナルドは眉を潜めた。
……兄上なら笑顔で何でも引き受けるんだろうな。
仕事の為、国外に出向いている九歳上の兄、セドリックを思い出す。
家族の為ならば何でもする人だ。
溺愛をしている弟たちの為ならば、多少、法律に引っかかるようなことも平気な顔をして手を出そうとする困った人でもある。
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