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01-9.

 ……兄上がいなくて良かった。 「内容による。とりあえず、言ってみろ」  すべてを叶えることができるわけではない。  レオナルドの言葉に対し、アルフレッドは困ったように笑ってみせた。 「レオ兄さん、魔法薬を作るのが得意だったよな?」 「そうだが」 「避妊薬って作れる?」  ……なにを言っているんだ。このバカは。  可愛らしく首を傾げてお願いをする姿は二十歳には見えない。 「……材料さえあれば調合することは可能だ」  学院には通っていなかったが、家庭教師から様々な授業を受けていた。  その中でもレオナルドは魔法薬学の才能が優れていた。  書物に書かれている魔法薬ならば材料を揃えることができれば、ほとんど、失敗することなく調合することができる。  ……一番の目的はこれか。  当然、弟であるアルフレッドはそれを知っていた。 「チューベローズ子爵家に恋人がいるのだろう?」  レオナルドは呆れたように言った。 「妊娠させたと聞いている。それなのに避妊薬を貰ってどうするつもりだ」  ……まさか、他にもいるのだろうか。  酒の勢いで知らない相手と一夜の過ちを犯す弟である。  それが一回だけであったとは限らない。 「妊娠している相手には薬は使えない。そのくらいのこともわからないのか?」  レオナルドは思わず想像してしまった最悪の状況を振り払うように言葉を続けた。 「妊娠?」  アルフレッドは初めて聞いた言葉のように聞き返した。 「妊娠なんかしていない」  そう言いつつも、急に不安になったのだろうか。  アルフレッドは自分自身の腹部を触り、以前と何も変わりがないことを確かめる。 「……お前の腹を触ってもわかるわけがないだろう」  レオナルドは頭を抱えた。 「相手の女性が妊娠したと聞いたんだ。心当たりがあるのではないか?」  レオナルドのその言葉に対し、アルフレッドは想定外のことを聞いたかのように情けなく口を開けたまま、しばらくの間、なにも言わなかった。

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