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01-12.

「……うん。もう、二度と酒を飲まない」  アルフレッドは涙を流しながら言った。 「坊ちゃま。お菓子をお持ちいたしました」  執務室の扉が開けられた。  抱き締めあっている二人の様子を見てもなお、ジェームズは何もなかったかのように距離を縮めて、二人の前に菓子を並べる。  丁寧に盛り付けられたクッキーやチョコレートを使った菓子は、レオナルドが好きなものばかりだった。 「ところで、アル坊ちゃま。子爵家の方が面会をしたいと申し出がございましたが、いかがなさいましょうか?」  ジェームズの言葉に対してアルフレッドは肩を揺らした。  冷や汗を流している様子を見る限りでは、まだレオナルドに隠し事をしていたのだろう。 「断れ」  それに気づきながら、レオナルドは言い切った。 「アルを子爵家なんかにやるつもりはないと伝えろ」 「ちょ、ちょっと、兄さん!!」 「大丈夫だ。アルは兄さんが守ってやるからな」  レオナルドはアルフレッドを強く抱きしめる。  気持ち的には腕の中に隠しているつもりなのだが、体格差がある為、抱き着いているようにしか見えないのが残念な姿である。  ジェームズはそれを指摘することもなく、レオナルドの意向を受け入れるだろう。それに気づいたアルフレッドは慌ててレオナルドを引き離した。 「会いに来たのは誰だった!?」  先ほどまで流していた涙は嘘だったのだろうか。  その表情は手紙を読んで浮かれていたレオナルドとよく似た表情だった。 「クリスティーンと名乗られている方でした」 「そうか! すぐに行くと伝えてくれ!」  ジェームズの返事を聞くとアルフレッドは大慌てで立ち上がった。 「待て」  すぐにでも向かおうとするアルフレッドの腕を掴み、制止させる。 「元凶が会いに来たんだな?」  告げられた来客の名は女性名だった。  しかし、アルフレッドの様子を見る限りではチューベローズ子爵家の使用人というわけでもないだろう。  なによりもアルフレッドは嘘が付けない。

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