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02-10.

「長居をさせるつもりもないからな」  ……いざとなればジェームズがいるから問題ないと思うが。  クリスの言いたいことが理解できない時は、ジェームズがレオナルドにもわかるような言葉に言い換えてくれることだろう。 「クリス、だったか?」  正式な名乗りを受けていないことを思い出した。 「伯爵家を侮辱することが目的ならば、すぐにでも撤回して立ち去るといい」  レオナルドは笑いかけない。  ……人嫌いが相手だと下に見ているのかもしれないな。  好き勝手に振る舞うクリスを叱ることはしない。  それをするほどの関係を築いているわけでもなく、叱ったところで得られるものは何もない。 「子爵家の人間が喧嘩を売るというのならば止めない。ただし、俺も手加減はしない。貴族として教育を受けたのならば言葉の意味が分かるだろう?」  忠告はした。  それをどのように受け止めるのかはクリスやチューベローズ子爵家の問題だ。 「ジェームズ」  レオナルドは控えているジェームズを呼ぶ。 「客人のお帰りだ。帰ってもらえ」 「かしこまりました」  先ほどまで大人しくクリスとアルフレッドの会話を聞いていただけとは思えない指示を出したレオナルドに対し、クリスは狼狽えていた。 「え、ええっ!? ちょっとっ!?」  追い返されるとは思わなかったのだろうか。 「僕に触んないでよ!」  子爵家の従者によって半強制的に立たせられ、背中を強引に押されて応接室から追い出されそうになっているのにもかかわらず、クリスは抵抗をした。 「レオナルドさん! アル君!」  応接室から追い出されないように従者を払い除けようとするが、背中を押していた従者によって羽交い絞めをされる形で身動きが取れなくなる。 「離してよ!」  クリスは振り切ろうと暴れているが従者は真顔のままだ。 「アル君! 可愛い恋人が捕まっているんだよ!? 助けて!」  か弱い少女のように涙を流しながら助けを求める。  悲劇のヒロインであるかのように振る舞う姿が妙に見慣れたものだった。

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