……滅茶苦茶だな。 　レオナルドには愛人になりたいと告げて、アルフレッドには恋人だろうと呼びかける。 　愛されることが当然であるかのように振る舞うクリスに対して、レオナルドは害虫を見るような眼を向けていた。 「今日は大人しく帰れ」 　アルフレッドは呆れたように声を上げる。 　先ほどまで感情的に振る舞っていたが、頭が冷えたのだろうか。 「アッ、アル君……？」 　クリスは暴れるのを止めた。 　急に力が抜けた主人に対して気を遣うどころか、ここぞとばかりにそのままの姿勢で退室させようとする従者を止める者はおらず、もう一人、付き添いをしていた従者はレオナルドとアルフレッドに対して深々と頭を下げてからクリスたちを追いかけていった。 　……嵐のようだった。 　前触れもなく訪れ、言いたいことを喚いて連れて帰らされる。 　常識ではありえない行動をするクリスに付き添っていた従者は慣れているとしか思えない行動だった。 　今回に限らず、クリスのやりたい放題の行動はよく見られるものなのだろう。 　廊下で待機していたメイドに指示を出したジェームズが応接室の扉を閉める。 　見送りの必要はないと判断をしたのだろう。 「今後、脅迫を受けるようならばすぐに言うように」 　レオナルドはゆっくりと立ち上がる。 「子爵家の脅迫に屈してはいけないよ」 　それは相手の言葉を聞き流すことも出来ずに、感情的になっていたアルフレッドを叱る言葉だった。 「……わかってる」 　アルフレッドはレオナルドから視線を逸らす。 「みっともないところを見せて悪かったよ」 　それは感情的になったことなのか。 　それとも、身体の関係を持っているクリスの言動に対してなのか。 「一人で戻るから。先に行っててくれよ」 　アルフレッドはどちらともとれる表情を浮かべながら呟いた。 　……一人で考えたいこともあるだろう。 　伯爵邸にいる限りはどこに居ても使用人の目がある為、一人にはなれない。 　しかし、レオナルドが傍にいると考え事の一つもできないのだろう。