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02-12.
「わかった。無理はしないように」
レオナルドはそれだけを告げ、歩き出した。
応接室の扉がジェームズの手によって再び開けられる。
振り返ることもなく、レオナルドが出ていく姿をアルフレッドが何とも言えない表情で眺めていることにジェームズだけが気づいていた。
* * *
応接室に残ったアルフレッドは大きなため息を零した。
……なにをしてんだよ。
言いたい放題、やりたい放題だったクリスの言葉を思い出す。
侯爵家の後ろ盾を手放すしかなかったチューベローズ子爵家の今後を憂い、アルフレッドが手を出したことを咎めながら伯爵家に後ろ盾になってもらおうと企んでいるのならば、どれほどに気が楽だっただろうか。
……クリスのバカ。
酒場で出会った時のことはよく覚えていない。
酔っていたこともあり、可愛い人に声をかけられたのだと柄にもなく浮かれていた。
その後はクリスの言葉に誘導されるがまま、宿を取り、そこで一晩を過ごした。
その日、何があったのか、アルフレッドは覚えていなかった。
……俺だけにするんじゃなかったのかよ。
何回も密会した。
酒に酔った勢いで性行為に及んだ証拠写真を伯爵邸に届けられたくなければ、誰にも明かさずに会いに来いと言われた通りに従った。
当然のように従わなければ写真を公にすると脅迫をされ、何度も性行為に及んだ。
そのことを思い出し、頬が赤くなる。
ずいぶんと身体はクリスによって躾けられてしまっていた。
共に夜を過ごす度に囁かれるようになったクリスの言葉を信じてしまうほどに心を許してしまっていたのだろう。
……嘘つき。
アルフレッドはクリスに好意を抱いていた。
酒の勢いで始まり、脅迫をしてきたのは、クリスの意思ではなかったのだと信じていた。だからこそ、当然のようにレオナルドに身体の関係を持ちかけたクリスに怒りを感じたのだろう。
……好きなのに。
心の中の言葉でさえも、過去形にすることができないほどに好意を抱いている。
それを口にすることができない自分自身を責める様にアルフレッドはクリスが座っていた場所を見つめて、再び、大きなため息を零した。
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