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03-1.

* * * 「坊ちゃま。お忘れ物はございませんか?」  クリスの突然の訪問から三日が経った。  今日は待ちに待ったジェイドとデートをする日である。 「大丈夫だ」  レオナルドはそう言いつつも鞄の中を確認する。  空間拡張魔法がかけられた鞄は見た目とは異なるほどの荷物が入るようになっているのだが、中には財布と身分証明書、それから身だしなみを整える為には最低限でもこれは持っていくべきであるジェームズに押し込まれたものが入っている。 「この格好はおかしくはないだろうか?」 「坊ちゃまにおかしいところなどは何一つございません」  レオナルドの緊張している様子を指摘することなく、ジェームズは腕時計を確認した。 「やっぱし、服を変えた方が良いのでは」  もうじき約束の時間になる。  ジェイドの性格を考えれば時間よりも少し早く到着をすることだろう。 「レオナルド様。その恰好は誰が見ても素晴らしいとおっしゃられます」 「しかし、ジェイドの隣に立つには少々子どものようではないか?」 「年相応の格好でございます。どうかご自信をお持ちくださいませ」  落ち着かない様子のレオナルドが鏡を見に行こうとするのをメイドが落ち着かせているのを横目に見ながら、ジェームズは駆け寄ってきた伯爵家で働いている騎士の話に耳を傾けていた。 「坊ちゃま。ジェイド公子がご到着なされたとのことです」  ジェームズはレオナルドを外へと誘導をする。  外へと出ることができる唯一の出入り口である門までは、伯爵家が自慢としている庭を抜けていかなければならず、歩いても十分ほどかかるだろう。 「いつも通りに振る舞えば問題はございません」  ジェームズの言葉に対し、レオナルドは頷いた。  ……久しぶりに外に出るから緊張をしているだけだ。  毎日のように手紙でやり取りをしているジェイドに早く会いたいわけではないのだと自分自身に言い聞かせる。 「レオナルド」  玄関の扉が開けられる。  それを待っていたかのようにジェイドが立っていた。

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