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03-2.
「迎えに来たぞ」
慣れているのだろうか。
当然のようにジェイドはレオナルドに手を差し出した。
「……馬車で待っていても良かったのに」
その手を掴むべきだろうか。
レオナルドは迷っていることを悟らせないかのように、素直ではない言葉を口にする。
「俺が早く会いたかったんだよ」
ジェイドはそう言いながらレオナルドの腕を掴む。
……強引だな。
そう思いつつも、抵抗をしようとは思えなかった。
レオナルドはジェイドの隣に並んでから、視線をジェームズに向ける。
「門外までお見送りいたします」
伯爵邸を離れる時にジェームズが付き添いをしないのは今日が初めてだった。
伯爵邸を離れなければいけない用事がある時に限り、外出をすることができるレオナルドは万が一のことが起きないようにセドリックが厳選した執事や護衛と一緒に移動をする。
……父上の許可を得たから大丈夫なのだろうが。
今回、伯爵家の使用人は一人も連れて行かない。
それはジェイドの意向でもあった。
「ジェイド」
レオナルドは問いかける。
「今日はどこに行くんだ?」
伯爵邸を早く離れたいのか。
気兼ねなく遊びに行けるのが子どもの時以来だからなのか。
少々、早歩きになるレオナルドに対して当然のように歩く速さを合わせてくれているジェイドはにやりと笑った。
「着いてからのお楽しみだな」
ジェイドはレオナルドの手を優しく握る。
誘い文句を告げる時の貴族的な形式に則ったものではなく、ただ手を繋ぎたかっただけなのだろう。
「急がなくてもいいぞ」
「時間は限られているんだ。ゆっくりしているのはもったいないだろ?」
ジェイドが落ち着いている態度をするのが不思議なのだろうか。
レオナルドは首を傾げる。その仕草すらも愛おしくて仕方がないと言わんばかりの視線を向けられていることに気付いてもいないのだろう。
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