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03-4.

「坊ちゃまたち。どうぞ、こちらへ」  門の前には侯爵家の家紋が彫られた馬車が止まっている。 「エスコートは俺がするから手を出さなくていい」  御者は緊張をしていたのだろう。  ぎこちなく馬車の中に誘導をする御者の手を制止させたジェイドは、慣れた手つきでレオナルドを馬車の中に誘導する。  ……慣れているのだろうか。  それに疑うこともなくレオナルドは誘導されて馬車に乗り込む。 「隣に座れよ」  ジェイドの隣ではなく向かい側に移動をしようとするレオナルドを引き留め、そのまま、隣に座らせる。 「……わかった」  ……そういうものなのだろうか。  向かい合わせの席になっているので、それぞれ座れば良いものだと認識していたことを口には出さず、ジェイドの隣で大人しく座ることにした。  遠慮なく扉が閉められ、馬車はすぐに走り出した。 「緊張するなよ。楽しみにしてたんだろ?」  ジェイドはレオナルドに笑いかける。 「ところで、伯爵領を離れたのはどのくらい前になるんだ?」  ジェイドの問いかけに対して、レオナルドは少々黙り込む。  ……いつだっただろうか。  答えにくい質問であったわけではない。  すぐに思い出せなかっただけである。 「たぶん、小さい頃だ」  考えてみたものの、思い出せない。  伯爵邸の外に出たとしても、伯爵領内に留まることが多い。少なくとも伯爵領の外に出たのは十年以上も昔のことだろう。 「父上と一緒だった覚えがあるからな」  それすらも曖昧な記憶である。 「そうか。ずいぶんと外出ができない環境にいたんだな」  それに対して、ジェイドは同情をするような声をかける。 「これからは、俺が外に連れ出してやるよ」  レオナルドの肩に腕を回す。  侯爵家が所持している馬車のわりには狭い室内だ。わざと距離を縮めたところでレオナルドは疑問にも思わないだろう。

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