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03-7.
「嫌になるほど知ってる」
ジェイドは、馬車の中で無理な姿勢をしていると身体が痛くなることを知っているのだろう。レオナルドを優しく抱きしめてから姿勢を元に戻させる。
……あまり変わらないのでは?
レオナルドの背中と腹に両腕を回して抱きしめた。
普段、騎士として仕事をしているレオナルドは鍛え方が違う。多少、無理のある姿勢をしたとしても身体が痛くならないように上手く調節をしているのだかもしれない。
「あの男が邪魔をしなければ、もっと早く会えたのに」
ジェイドはセドリックのことを思い出したのだろうか。
心の底から鬱陶しい相手だったと言わんばかりの表情を浮かべながら、レオナルドを抱きしめる。
「レオ」
ジェイドは愛おしそうに呼ぶ。
「ごめんな。遅くなっちまって」
……変だな。
先週も同じことを感じた。
ジェイドの言う通り、十年前に一回だけ出会っているのだろう。
……覚えていないはずなのに。
妙な既視感がくすぐったい。
十年前も同じように愛称で呼ばれたことが一回だけあったことを思い出す。
「……なんだよ」
レオナルドは遠慮なく顔を近づけてくるジェイドの頬を両手で掴む。
頬はあまり柔らかくない。
「前はもっと柔らかったのに」
無意識だった。
レオナルドは心の中で思っていたことを声に出していることに気付いていないらしく、ジェイドの頬を撫ぜている。
明らかに何かを思い出そうとしているレオナルドに対し、ジェイドは愛おしそうに眼を細めるだけだった。
……そうだ。
既視感の正体を掴む。
……十年前の誕生日だ。
十年前の誕生日に開催されたパーティで二人は出会っている。
大人たちの退屈な話に飽きた二人は会場を抜け出して、中庭で遊んでいた。
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