それがレオナルドの手に届くことはないと薄々気づいていながらも、ジェイドは諦めるわけにはいかなかった。 「……届いていないと思っていた」 　言われてようやく思い出した。 　セドリックの目を盗み、一度だけ手紙を送ったことがある。 　……あの時は兄上の考えがわからなくて恐ろしかった。 　レオナルドが十三歳になった頃、入学をさせないと言い出したセドリックの言葉に動揺し、既に学院に通っていたジェイドに手紙を書いたのだ。 「届いていたとしても、きっと、返事を書く価値もないものだったのだろうと思っていたのに」 　返事はなかった。 　その当時は返事が届かなかったことに悲しみを覚えたのだろう。 「届いてたんだな」 　度重なる環境の変化や外に出ることが許されない精神的な苦痛が重なり、出会った日の大切な思い出を心の奥底に隠し、思い出せないようにしてしまうほどには苦痛だったはずだ。 　……あの頃の俺が報われた気さえしてくる。 　十年以上前の記憶の多くがうろ覚えなのは、自己防衛の為だったのだろう。 　強制的に引きこもりをさせられる日々に慣れる為には、そうするしかなかった。 　……ジェイドは忘れていなかった。 　一方的な言葉だけを並べたものだった。 　内容をはっきりと覚えている。レオナルドは一度だけ会ったジェイドに手紙を送るほどに追い詰められていたのだろう。 　十三歳だったレオナルドにとって最後の手段だった。 「ようやく助けてやれる」 　十年間、伯爵領から離れることは許されず、そのほとんどは伯爵邸の中だけで過ごすように強制させられた日々は苦痛ではなかった。 　室内で過ごすことは嫌いではなかった。 　家族や伯爵邸で働く使用人たち以外との会話が認められていないことも、慣れてしまえば、それが普通のことであると思うことができた。 「レオナルド。辛かっただろ」 　それは、それ以前のある程度の自由が認められ、歳の近い友人たちと交流をすることができていた楽しい日々を心の奥底に押し込めることによって手に入れた思いでしかなかった。 　一度、そのことを思い出してしまえば、元には戻れない。