「知らない」 「そうだと思った。それなら、最初は名物巡りから行こうか？」 「いいな。楽しそうだ」 　レオナルドは目を輝かせた。 　気になることはあるものの、今は、目の前のことに集中をしていたい。 「露店が多いな」 　レオナルドは他人を避けながら店を見る。 「店舗を持つのは一部の商人だけだからな。そういう連中は城下町にいる」 「そうなのか。色々な地方の食べ物があるのは露店だからこそだな」 「よく知ってるな」 　ジェイドは意外そうな顔をした。 　それに対してレオナルドは困ったように笑った。 「興味はあったんだ」 　伯爵家の引きこもりとして有名になってしまったレオナルドの言葉を信じてくれる相手は貴重だった。 「実物は見たことはなかったけど。写真を見せてもらっていた」 　伯爵邸の中ではジェームズだけだった。 　世話役を務めるジェームズは、自らの意思で伯爵領から出てこない世間知らずなのだと噂されるレオナルドの本音に耳を傾け、誰にも知られないように支援をし続けていた。 「伯爵邸の中にも味方がいたんだな」 　少しだけ安心をしたのだろうか。 　ジェイドはレオナルドの言葉を聞き逃さないように問いかける。 「あぁ。ジェームズだけだったけどな」 「……あの白髪頭の執事だな？」 「そうだ。俺の世話役を続けている変わった奴だよ」 　将来性のない引きこもりの面倒を見たくはない。 　何度も影口を叩く執事やメイドの姿を見てきたが、ジェームズのように昇進を断ってまでレオナルドの傍にいることを選んだ者はいなかった。 「そうか。礼をしなくてはならないな」 　ジェイドはレオナルドの手を握りしめる。 「彼が居なければデートの予定を潰されていただろうな」 　ありえない話ではなかった。 　ジェイドは露店が立ち並ぶ人込みの中を歩く。レオナルドが人込みに流されることのないよう最善の注意を図りつつ、時々、何かを警戒するように周囲を見渡していた。