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03-23.

 ……伯爵邸に戻らなくてもいい、か。  昼間に言われた言葉を思い出す。  ……今よりは自由になるのだろうか。  自由を奪われ続けた十年間を耐え抜く為、レオナルドはそれ以前の記憶を思い出すことを止めた。楽しかった友人たちと過ごす日々を思い出してしまえば、現状に耐え切れなくなり、苦しみ続けることになるとわかっていたからだ。  それを刺激するような言葉を言われ、考えてしまった。  そして、考えることを無意識に拒絶していたのだろう。  昼間、思い出そうとしてしまう自分自身の思考を反らそうとするかのように、果物を口の中に大量に詰め込んでいたのは自己防衛の一種である。もしくは、辛い思い出を忘れようとする自分自身に対する罰の意味を込めた自傷行為だ。  ……イキシアの名物の話をした覚えがある。  十年以上も前の記憶だ。  ……誰かに聞いたんだ。家の連中ではない。別の誰かに聞いたんだ。  未開封の白ワインを開け、ワイングラスに注ぐ。  ……思い出せ。  ジェイドに助言をしたのであろう相手のことをレオナルドは知っているはずだ。ジェイドに対しては嘘の知識を教えつつも、レオナルドの好みは外さなかった。  ……大切なことを忘れているはずだ。  まるでレオナルドのことを忘れていないと告げるような行動だった。  その行動に意図があるように感じられる。  ……俺が思い出さなくては意味のないことのはずだ。  ジェイドに問いかければ答えは出るだろう。  しかし、それでは意味がない気がした。  ……思い出せ。  白ワインを飲む。  夜食として渡されていた塩気の強いクッキーのようなものにチーズを乗せながら、考える。 「――はっ、ダメだな」  自嘲的な笑い声をあげる。  酒を煽っても酔うこともできない。  それでも思考回路は通常よりは鈍くなっているはずだ。  ……十年の間におかしくなっていたようだ。  自分自身を騙すような真似をしてでも、心の奥底に隠してしまったことを思い出そうと足掻く自分自身がおかしくて仕方がない。

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