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03-31.

 自分自身の安全を守る為には適度に同調しておくのが良いとこの十年間で学んだことを実践しているだけだった。  ……黙られると困る。  ジェイドは無言ではあるものの、レオナルドを解放するつもりはないようだ。  幸せそうな顔をしてレオナルドを抱き締めている。時々、レオナルドの身体を抱き締めている手が動いているのは気になるものの、止める術はない。 「ジェイド」  レオナルドは力を抜く。  抵抗しようとする気力はなかった。 「そのままでいいから聞いてくれ」 「なんだ?」 「兄上のことで言っておかなければいけないことがある」  現在、爵位を受け継いでいるのは父親であるトムだ。  しかし、実質的には長男のセドリックが伯爵家を仕切っている。十年前から優柔不断なトムでは任せきれないと言わんばかりに領政に口を出し始めた。 「兄上は結婚を阻止しようとするはずだ」  アルフレッドが脅迫を受けていたこともあり、セドリックに手紙を出すしかなかった。恐らく、アルフレッドもレオナルドのことに関する内容を手紙に書き、セドリックに助けを求めていることだろう。 「そうなれば、きっと、会うことはできなくなる」  海外で行っている仕事が落ち着けば、セドリックは伯爵邸に戻ってくる。  それは早ければ明日の話であり、遅くても一か月以内の話である。  レオナルドにとって悪夢の日々が戻ってくる。 「大丈夫だ」  ジェイドはレオナルドを宥めるように囁いた。 「俺が助けに行くから」  抱きしめる。 「俺を信じろ。レオナルド。もう離さないと言っただろ?」 「……本当に助けに来てくれるのか?」 「当然だ。何があっても救い出してやるよ」  簡単に腕の中に納まってしまうレオナルドが愛おしくて仕方がないと言わんばかりの声で語りかけるジェイドは、罠にかかった獲物を見つけたような顔をしていた。  ……ジェイドといれば、俺は幸せになれるのかもしれない。  監視付きの日々は悪夢のようだった。

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