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03-33.
「クリスのことか? なんだ。また、やらかしたのか?」
ジェイドの言葉に対し、レオナルドはクリスの言動を思い出してしまう。
……あの屑野郎。
思い返すだけでも不快感を抱く。
子爵家の人間に良いように扱われ、利用されたアルフレッドはどれほどに屈辱だったことだろうか。
なによりも心細く、恐ろしかったことだろう。
気づいてあげることができなかった自分自身に対しても苛立ちを抱く。
「チッ。全部、知ってるんだろ」
レオナルドは他人の話を聞いているかのような顔をしているジェイドに対し、舌打ちをする。
「被害者は俺の弟だ。騙したな」
「人聞き悪いことを言うなよ。俺だって知らなかったんだ」
他人事のような顔をしているが、ジェイドも関わっているはずだ。
元婚約者に対して思うこともあるだろう。
「嘘つき。あの後、調べ上げたからな」
レオナルドは嘆かわしい事実を思い出したのだろう。
自身の髪を片手で乱す。どうしようもなく、苛ついている時の癖だ。
「落ち着けよ」
ジェイドはレオナルドの手を掴む。
「俺はレオナルドが成人した弟を庇う優しい奴だと知っていた。だから、それを利用しただけだ」
ジェイドはレオナルドの手を掴んでいない右手で優しく髪を撫ぜる。
レオナルドの髪型が崩れるのが嫌だったのだろうか。
「誰が被害者とかどうでもよかったんだよ」
愛おしくして仕方がないと言いたげな顔をしながら優しく触れられると、レオナルドも振り解けなかった。
「言っただろ? 俺はレオナルドさえ手に入ればいい」
……屑野郎なのに。
掌で転がされているようなものだと自覚はしていた。
愛を囁くような口調のまま、告げられているのは最低な言葉ばかりだ。それなのにもかかわらず、受け入れてしまいそうになる。
……好きになるなんて!
心が奪われてしまっている。
十年前の出会いを思い出してしまえば、それが初恋であったかのように思えてくる。
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