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01ー3
……義姉上が着替えをしている間に行動したな。
それに気づき、レオナルドは苦笑する。
室内用のドレスを選んでいるシェリルはセドリックが居なくなっていることに気付いてもいないだろう。仲が良い夫婦ではあるのだが、自分の好きなことになると干渉せず、趣味を貫く性格までそっくりである。
「伯爵邸から出てはいけないって言ったよね?」
セドリックは笑顔のまま、レオナルドに近づく。
ジェームズがセドリックの前に立ち塞がるものの、それに対して文句を口にすることもしない。慣れた手つきでジェームズを退かせ、レオナルドが座っている寝具の目の前に立った。
「それから、ベッドを椅子の代わりにしないようにとも言い付けたはずだけど」
セドリックはため息を零す。
部屋を見渡す。レオナルドに与えられている執務室とは違い、自室は物で溢れていたはずである。ジェームズが毎日の日課として片づけをしていても、レオナルドは物を広げる天才ではないかと思うほどにすぐに部屋を荒らす。
セドリックは、レオナルドの悪癖を知っている。
だからこそ、眉を潜めたのだろう。
「……出ていく準備をしているって本当だったんだ」
私物が片付けられているのは、公爵邸に持ち込む準備を進めているからだ。
少しの間、部屋を見渡しただけでセドリックはそれを理解したようだ。
「婚約者と暮らすことが決まったんだ。もう伯爵邸には戻らない」
レオナルドは言い切った。
椅子代わりにベッドに座っている姿勢も気に入らないと言いたげな顔をするセドリックの視線を無視する。
行儀が悪いことはわかっているが、反抗する姿勢を緩めるつもりはないと主張する意味も込められている。
「その必要はないよ」
セドリックは寝具の近くにある椅子に座る。
「婚約を破談させるから」
セドリックの視線は纏められている荷物が詰められた箱に向けられている。
……兄上の悪い癖だ。
レオナルドはため息を零したくなるのを堪えた。
「レオは伯爵邸から出て行かない。だから、今日中に荷物を元の場所に戻しておいてくれる?」
荷解きをするように指示をするセドリックの表情は冷たいものだった。
強引に物事を進めようとする時のセドリックは、レオナルドの顔を見ない。
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