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03ー1

* * * 「降りなくていいのか!?」 「めんどくさいだろ。それ専用に道を作らせた」  庭の中も馬車で移動することができるように改装させたようだ。  門を開けさせると、馬車はそのまま庭を走っていく。  ……革新的というのだろうか。  移動距離を極力短くしようとしているだけかもしれない。  ……庭の中を走られるとあんな顔をするんだな。  窓の外に視線を向けてみれば、遠慮なく庭の中を走る馬車を唖然とした顔で見ていた庭師の姿があった。心の底から同情する。  一時間半ほど走っていた馬車が止まった。  サザンクロス侯爵家が所有する邸宅の一つであり、大規模修繕工事が行われた邸宅の玄関が開かれた。 「お手をどうぞ?」  先に馬車を降りたジェイドは笑顔で手を差し出す。  ……時々バカにしてくるんだよな。  からかわれているのだろう。  明らかに緩み切った顔で言われても格好がつかない。 「ご丁寧にどうも」  レオナルドは感情の籠っていない声で応えた。  開けられた扉の先で待っている侯爵家の使用人が好印象を抱いているとは限らない。  少しでも仲が良いことを印象付ける為には必要なことであると判断をしたのだろう。 「レオナルド」  ジェイドは馬車を降りたレオナルドの耳元で名を呼ぶ。 「これからは毎日会えるな」  頬に口付けをする。  それを拒否しようとする前に離れられた。 「寮には入らないのか?」 「入るわけがないだろ。可愛い俺のレオナルドがいるのに」  ジェイドは当然のように言い切った。  相変わらず緩み切った笑顔を見ると悪態を吐く気さえなくなる。 「仕方がないな。帰ってくるのを待っている努力はする」  レオナルドの言葉に対し、ジェイドは嬉しそうに笑った。

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