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04-3.

「そうだ」  ジェイドは部屋に向かっている最中に思い出したよう出足を止めた。 「結婚式の衣装を決めないといけなかったな」  ジェイドのその言葉を聞き、レオナルドは腕を離して逃げ出そうとしたが、すぐに捕まえられてしまい、逃げ出せない。 「明日は大忙しだな? レオナルド」 「……それは次回以降にしない?」 「しない。結婚式まで日にちがないのはわかっているだろ?」  ジェイドの言葉に対し、レオナルドは言い返せなかった。  来月の中旬に予定をされている結婚式の内容はほとんど決まっている。貴族の結婚式の流れはどの世代も変わらない。  その為、主役である二人が準備をするのは当日の衣装くらいである。  ……義母上も来るんだろうな。  何度も顔合わせをしている義母のことを考える。  ジェイドの性格は義母譲りだ。侯爵である義父の言葉を借りるのならば、侯爵家は代々執着心の強い性質を持つ者が多いらしい。 「……わかった」  ため息を零しそうになる。  ……明日は着せ替え人形だ。  衣装を決める権限はレオナルドにはないだろう。  場に相応しくないものでなければ、こだわりのないレオナルドと違ってジェイドは嬉々として服を選ぶ。  そこに義母も加わればレオナルドは着せ替え人形のように扱われることになるのは、目に見えていた。実際、この半年の間、何度もレオナルドを訪ねてきた義母の手によって着せ替え人形のようにされたことは一回ではない。 「せっかくの休みなんだ。ジェイドの趣味に合わせてやるよ」 「本当にいいのか?」 「もちろんだ。ジェイドの好きにすればいい」  レオナルドの言葉を聞き、ジェイドは満面の笑みを浮かべる。  明日が楽しみで仕方がないと言わんばかりの顔をするのを見てしまうと、レオナルドも嬉しくなってしまう。  ……幸せだな。  ――二人の出会いは最悪だった。  強引に伯爵邸の外に連れ出される形とはなかったが、二人が恋に落ちるのは運命だったのだろう。  そうとしか思えないほどにレオナルドもジェイドも幸せだった。 (完結) ※次から外伝になります。

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