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*外伝1 クリス・チューベローズの断罪* 01-1.
「――はぁ」
クリス・チューベローズはため息を零していた。
独断で結んだ条件付きの婚約が破断したのは子爵家にとって支障は何もない。
公にしない期限付きの婚約だった。
ジェイドがレオナルドを伯爵家から引き離す為の貢献をすることができたお礼として、多額の金額が振り込まれており、子爵家が失敗していた事業の手助けまで受けることができた。
そこまでは計画通りだった。
しかし、新たにジェイドの婚約者となったレオナルドの実家であるカルミア伯爵家との関係は日に日に悪化している。
「クリス様」
執事の声さえも冷たく感じるのは鬱々としているからだろうか。
一か月の自宅謹慎を言い渡されたクリスは言い付け通りに子爵家にいた。反抗するのならば勘当も辞さないと言い放った父親の言葉を受け入れるしかなかった。
「やあ。アーロン。僕になにか用事でも?」
クリスはやる気のなさそうな声で返事をした。
元々は商人だったチューベローズ家は多額の奉納金を収め、懇意にしていた貴族たちの支援を受けることにより爵位を手に入れた。新興貴族と呼ばれる社交界では非常に立場の危うい存在である。
「旦那様からお手紙を預かっております」
執事、アーロンに渡された手紙を見る。
生真面目な性格がよく表れている字を見つめるクリスの表情は、やはり、気怠そうだった。
……嫌だなぁ。
好き勝手に振る舞い、自由奔放に生きてきた自覚はある。
新興貴族として弁えた振る舞いをするべきだと苦言を言われたこともあった。
……女の子と婚約しろなんて酷いことを言うものだよ。
その忠告を聞き流してきた罰が下ったのだろうか。
「パパは僕のことをどう思っているのかな」
クリスが好んでいるのは可愛らしい装いだ。
女性たちの中で評判となっている店があると聞きつければ、その日の内に向かい、気に入った商品を買い漁る。
若者の間では、騎士団の服を意識したような恰好が流行だと耳にした時は興味を抱くことができずにいた。
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