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01-2.
男性の衣装を見てもかっこいいと心が揺すぶられることはあったが、それは、あくまでも好意を抱いている男性に着てもらいたいという意味のものだった。
「子爵家はブライアン様が継がれます。新興貴族である子爵家の最大の後ろ盾だったサザンクロス侯爵家との縁が薄れたことを考えれば、他の家とも友好的な立ち位置を維持するべきでしょう」
アーロンは専属執事だ。
しかし、クリスの自由奔放な常識を弁えない言動に振り回される日々を当然だと受け入れているわけではなく、何度も移動願を出していることはクリスも知っていた。
「それってさ。僕が家にいると邪魔ってこと?」
手紙に書かれているのは、現時点では婚約者のいない未婚の女性の名前だ。
「ジェイド先輩とは交渉してたんだよ。僕はアル君に関係を迫ったのだって、全部、侯爵家の企みじゃないか。パパだってそれをわかっていたんじゃないの?」
サザンクロス侯爵家やカルミア伯爵家と敵対関係にある派閥が多く、恩のある侯爵家を捨て、他の派閥に潜り込もうとしているのはクリスでもわかる。
「それなのに、家の為に婚約をしろってさ。おかしいと思わない?」
クリスは舌打ちをする。
……子爵家のくせに。
新興貴族の中でも権力を持っていたのは、強力な後ろ盾があったからである。
それがわからない父親ではないだろう。
「僕は子爵家に貢献してきたつもりだけど?」
……権力ってそんなに大事なの?
ある程度のことを揉み消してもらえるのは、クリスとしてもありがたいと思っている。
学生時代から度々問題を起こしていたクリスが退学にならなかったのは、子爵家のわりには大きい権力を父親が振りかざしていたからだ。
今更、その権力を手放せなくなっているのだろう。
「ミリアは? キャロルは?」
チューベローズ子爵家ではミリアとキャロルは立場が弱い。
政治絡みの婚約をさせるのならば、母親が違う二人でも問題はないはずだ。
「僕はママの子どもだよ。政治の道具として売り飛ばしたいなら、先にミリアとキャロルを使うべきじゃないの?」
クリスの言葉に対し、アーロンの眼は冷たい。
異母妹たちを道具のように扱うのはクリスだけではない。
クリスの兄、ブライアンも成人になっていない妹たちを政治の道具として使うべきだと主張していた。
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