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01-3.
「クリス様」
アーロンは覚悟を決めたような顔をしていた。
「貴方様が子爵家にお与えになった膨大な被害に対してはいかがお考えでしょうか?」
カルミア伯爵家からの訴えを受け、侯爵家は掌を返した。
侯爵家が提案したことよりも状況を悪化させたのはチューベローズ子爵家であり、その多くはクリスによる独断である。真実を追求する間もなく、伯爵家に押し掛ける形となったのは侯爵家側の失態である。
そのような公言をされた途端、子爵家の立場は急激に悪くなった。
「僕、難しいことはわかんなぁーい」
間の抜けた声をあげる。
わざとらしく両手を頬に当て、可愛い姿を披露するクリスに対し、アーロンは心の中で悪態を吐いていた。それを表に出さないのは子爵家の執事としての自尊心によるものだろう。
「アル君のところにでも行ってこようかなぁ」
現実逃避をする場所にはなるだろう。
上手く言い込めてしまえれば、伯爵家の訴えを取り消すように仕向けることができるかもしれない。
「カルミア伯爵家と子爵家の関係すらもご存じないですか?」
アーロンは呆れているのだろう。
「接近禁止命令が出ております。子爵家の立場をさらに悪くするような行いは避けていただけなければなりません」
アーロンのその言葉を聞き、クリスはため息を零した。
……アル君。
初めて出会った時は計画されたものだった。
酒に酔ったアルフレッドを誘惑し、宿にまで誘導した。
そして、そのまま睡眠薬を飲ませて眠らせる。その間に服を脱がせ、キスマークを身体中に付け、行為があったかのような証拠を残せば任務完了となるはずだった。
「アル君に会いたいなぁ」
身体の関係を持った中でもアルフレッドはクリスにとって特別だった。
……可愛かったんだよねぇ。
言い付けられた仕事以上のことをしてしまった。
無防備に眠るアルフレッドを前にして我慢することができなかった。
その結果、クリスは眠りに落ちたアルフレッドを強姦するという非道な行為に手を染めたのである。
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