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01-4.
「クリス様」
アーロンに名を呼ばれ、クリスは視線を向ける。
……嫌な顔。
クリスがした行動は褒められるものではない。世間では侯爵家と伯爵家を敵に回し、十数年前に多額の金銭を上納したことにより爵位を与えられただけの子爵家など取り潰してしまえという声が大多数だ。
……どうせ僕たちを捨てていくのに。
アーロンもまた世間の声に同調している一人である。
彼は、今月末には子爵家の使用人を辞める。そのような決断を下したのはアーロンだけではない。多くの使用人たちがチューベローズ子爵家に見切りをつけ、次の安全そうな職場へと逃げ始めている。
クリスもそのことを知っていた。
「子爵家の立場を理解してください」
アーロンの言葉に対し、クリスは視線を逸らした。
……偉そうに。
子爵家で働いている限り、アーロンは使用人だ。
子爵家の子どもであるクリスに対し、命令や指示をする権限はない。
そのようなことをすれば、鞭打ち等の罰が与えられる可能性があることをアーロンも知っているだろう。
「嫌だね。そういうことはお金が大好きなパパやお兄様がすればいいんだ」
クリスはお気に入りのぬいぐるみを掴む。
ぬいぐるみを抱き締めている姿は幼い子どものようだった。
我儘を口にすればなんでも叶うと信じているかのような仕草さえも、今となってはあざといだけである。
扉を三回叩く音がした。
それに対してアーロンはクリスに軽く頭を下げた後、扉を開ける。
「クリス!!」
アーロンを押しのけるようにして部屋に入ってきたのは、クリスの父親だった。チューベローズ子爵家の当主として、慣れない貴族生活に馴染もうと努力を重ねることにより手にした僅かな貴族特権に溺れるような人だ。
「パパ」
クリスは父親とほとんど関わったことがない。
クリスが女性用の服を買い漁った時も、化粧に目覚めた時も、それがチューベローズ子爵家の名声を大きく左右するものではないと判断を下し、放置されてきた。
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