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01-6.
顔を見たくないと言わんばかりの表情を浮かべ、部屋を立ち去ろうとする父親を引き留める。
「僕はいらない子だったの?」
ゆっくりと顔をあげる。
背を向けたままの父親が何を考えているのか、わからない。
「アル君と関わるように指示をしたのはパパだったのに」
指示をされた範囲で留めておけば、子爵家を追い出されるようなことにはならなかったのだろうか。
「僕は悪くないよ。全部、パパが悪いんだ」
問題が起きた場合、元凶となったクリスを取り除けば元通りになる。
父親はそう考えていたのだろう。他の家との交友を深め、援助を受ける為の道具としてクリスを使うつもりだったのだろう。
しかし、サザンクロス侯爵家とカルミア伯爵家の怒りを買い、社交界での立場が急激に悪くなっていくのを考え、クリスを切り捨てることにしたようだ。
「アーロン」
「はい。旦那様」
「早々に追い出しておけ」
父親はクリスの言葉に応えることはなかった。
「娼館で人気者になれ」
与えられたのは無情な言葉だけだった。
用件はそれだけだったのだろう。父親はクリスの部屋から出ていった。
「……僕を売るんだね」
冗談を口にする人ではないことは嫌になるほどに知っていた。
与えられた損害を取り戻す為ならば、血の繋がった息子を売り飛ばすくらいのことはするだろう。
奴隷制度を維持している他国ではなく、国内の娼館に売り飛ばすという判断をしたのは僅かな同情だったのだろうか。それとも、他国にまで売り飛ばしにいく労働力が無駄になると考えたのだろうか。
……逃げれないよね。
アーロンは与えられた指示に逆らい、クリスを逃がすようなことはしないだろう。逃亡を企んだところで意味がない。
あっという間に身動きを封じられ、娼館に売り飛ばされるだけだ。
……二度とアル君には会えないんだ。
クリスはそれを理解してしまった。
……自業自得だけどね。
必要最低限の荷物を片付け始めたアーロンを止めることさえもできない。
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