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外伝2 セドリックの悪夢* 01-1.
セドリックは繰り返しの夢を見る。
それは悪夢だ。セドリックの魂に刻み込まれた悪夢としか表現することができない前世の記憶は、悪夢という形に姿を変えてセドリックの平穏を脅かす。
それは前世からくる忠告なのか。
それは二度と過ちを繰り返してはならないという警告なのか。
眠りについている時には悪夢に魘され、起きている時には悪夢を現実にしない為に必死になって足掻いているセドリックには正解などわからなかった。
今日も悪夢を見るだろう。
それをわかっていながらもセドリックは眠りについた。
* * *
「――伯爵閣下はいらっしゃいますでしょうか!!」
早馬を走らせてきたのだろう。
伯爵邸の門を馬に乗ったままくぐり、玄関に入る直前で馬を降りた男は冷や汗をかいていた。顔色は青白い。気を緩めれば、そのまま意識を手放してしまうのではないかというほどだった。
男は、今年から魔法学院に通い始めた伯爵家の次男、レオナルドの従者だ。学院での日々を支える為に素早く動ける若い従者が選ばれた。
「父上ならば執務室だよ」
セドリックは騒ぎを聞きつけて螺旋階段から降りながら答える。
身体が震えている従者に違和感を覚えた。
緊急の用事ならば、学院で学んでいるはずのレオナルドから手紙を届けられるはずである。少なくとも従者が事前通達もなく飛び込んでくるなどと異例中の異例だ。
「レオは? 緊急事態を放っておくような弟ではないはずだけど?」
セドリックは周囲を見渡す。
騒ぎを駆けつけてきた使用人たちもセドリックと同じように、この場にいないレオナルドを探すような素振りをしている。
それに対し、従者は限界だったのだろう。
両足を地面につけ、今にも泣き崩れそうな顔をしながらセドリックを見上げた。
「……なにかあったんだね?」
セドリックの言葉に対し、従者は頷く。
「父上に今から伺うと伝えてくれ」
「かしこまりました」
セドリックの言葉に対し、執事が素早く行動を移す。
未だに冷や汗が止まらない従者の元に近づいたセドリックは顔をしかめた。
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