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01-2.
……煙臭い。
銃撃戦が行われた場所にいたかのような独特の臭いを放っていた。
火属性の魔法が暴発した時にも同じような臭いが発生することがある。どちらにしても、かなりの火力がなければ身体中に臭いが残ることはないだろう。
しかし、不可解なところがあった。
従者がいたのはレオナルドの近くである。
レオナルドは王国一の安全な場所と謳われている学院にいるはずだ。
魔法が暴発するような場にいたとしても、レオナルドの実力を考えれば巻き込まれるとは考えにくい。
「立てるかい?」
セドリックは何が起きたのかを問いただしたい衝動を抑え、従者に声をかける。それに応える従者はなんとか立ち上がった。
その表情は暗い。
いずれは伯爵を継ぐことになるセドリックに対してするべき振る舞いも頭の中から落ちてしまうほどの衝撃的な出来事が起きたのだろうか。
「父上の元に伺う。着いておいで」
セドリックは背を向けて歩き始めた。
その後ろを無言である従者は生きた屍のようである。気力をすべて奪われてしまったかのようだと心の中で思いながらも、指摘はしなかった。
……連絡を終えたら命を絶ちそうだ。
それは、後々、現実となる。
セドリックはそのようなことを知ることもなく、心の中で疲れ果てた目をした従者に同情をした。
「――父上。セドリックです。入ります」
伯爵であるトムがいる執務室の扉を叩く。
返事を待たずに扉を開けた。相変わらず、膨大な量の書類に囲まれているトムの表情は険しい。
「この者が伝えたいことがあると言っていました」
セドリックは従者の腕を掴み、強引にトムの前に立たせる。
今にも気絶をしそうな従者であったとしても、伯爵を目の前にしては気が引き締まるのだろう。後ろから見ていても緊張していることがよくわかる。
「はっ、伯爵、閣下に、お伝えいたします!」
声が震えている。
従者は震える手で一通の封筒を取り出した。ところどころ焼け焦げている封筒に対し、トムは眉間に皺を寄せながらも受け取った。
従者の状態からして異常が起きていることは伝わったのだろう。
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