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2-Prologue02■S.S
世界を一言で表せと言われたから大声で言ってやったのだ、そう、それは素晴らしい程の大声で、『虚しい』と!
「……おまえのなぁ……そう言うところが、あー、なんつーかなぁ……」
「お、なんだ? 喧嘩か? 買うぞ? ソラコさんは売られた喧嘩は漏れなく買っていくスタイルだぞ? たとえ育ての親であっても例外ではないぞ?」
「おまえに喧嘩なんぞ吹っ掛けてる暇なんてねえよ、こちとら忙しいんじゃ。多忙な保護者を下らねえ揉め事で悩ませんなっつってんだ。大体なぁ、高校の道徳プログラムなんぞ適当にそれっぽい事言っておけばいいだろうがよ、ええ? こう、人様の役に立つことをやりたいです~的な、美辞麗句をよぉ……」
「わたしにそんな思ってもいない偽善ぶった意見を垂れ流せ、と……?」
「思っていなくても適当に話を合わせんのが大人なんだよ。つーかなぁ、お前はその、馬鹿じゃあねーしわかってんのにあえてそうやってクソヤロウぶってうんちく垂れ流すのがよくねーのよ……だから友達ができねーんだぞソラコ」
「失礼な親モドキだな。わたしに友人と呼べる存在が皆無だという事実は認めるが、それはわたしの世界には必要ないと判断したからだ」
「世界が虚しいだなんてよう言ったもんだぜ、青二才。まだおまえ十七だろうが。友達作ってくだらねーコイバナでもしてクソして寝んのが健全な十七歳女子だろうが」
「そんなつまらん人生、虚しいよりも浅ましい。わたしは他人の恋なんかよりハンダ付けをしている方がよっぽど楽しい!」
「完全に育て方を間違えた代表例みてえなツラしてやがるぜ……あー、いや、いい。わかった。もういいからとりあえず今回こそはしおらしくしずかーにカリキュラムをこなしてくれや。おまえは見た目だけなら淑女なんだからとにかく喚かず目立たず壁の雑草に徹しておけ」
「言われなくとも、わざわざ外で騒ぎ立てるような馬鹿にはならんさ。さっさと終わらせてさっさと卒業資格を取ってみせる。というか道徳的価値観がアヤシイって失礼すぎないか? わたしはただ世界は虚しいと言っただけだぞ?」
「普段の授業態度がクソだったんだろうがよ。いっそそのやたらと鼻もちならん性格も矯正してこいじゃあながんばれよ帰りはバスで帰って来い無理そうなら連絡投げとけ来れたら来る」
言いたい事だけ言いやがった義父殿は、さっさとわたしを放り出してブウンと車を走らせて行ってしまった。
全くもって理不尽だ。理不尽極まりない。しかしながら『理不尽』という言葉をこれでもかと募らせたところで、世界が優しくなるわけでもない。
仕方なく息を吸う、そして吐く。深呼吸というささいな動作は優秀だから大好きだ。肺から血液に溶け込んだ酸素は、わたしの脳みそによく効く筈だ。
「仕方ない、さっさとこなすか」
いつものマフラーを少し結び直し、久しぶりに履いた外用の靴の底の感触に眉を寄せる。わたしの授業過程はすべてオンライン講習だったから、本当に外にでること自体があまりにも久しぶりで少しどころかかなり緊張していたが、あくまで何食わぬ顔を装った。
仕方ない。シノウラソラコはそういう女だからだ。
下らないと一笑されることの多いこのプライドを投げ捨ててしまえば、それこそわたしなんか足先にガラクタをくっつけた肉塊に成り下がってしまうだろう。
ああ、うん。……やはり、世界は虚しいだけだ。
別に、さっさと死にたいとは思わない。それほど絶望するような何かもない。ただわたしにとって、この世界は中身の入っていないスカスカのシュー生地のようなもので、やっぱりそれは『虚しい』という以外には表現の仕様がなかった。
わたしの生きる世界は、スカスカでとても虚しい。
早く帰りたい、と思えることだけがせめてもの救いだった。
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