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セファ、終わりの始まり②

 手には、生々しい感触と血の付いたナイフ。目の前には、血まみれになって動かなくなったレントが横たわっている。  キミが悪いんだよ……レント、愛しのレント。愛してる、愛してるよ。  ボクの顔や首、そして長い髪に返り血がかかっている。白いシャツと青いジーパンにも、レントの血で紅黒い染みがいくつもできてしまっていた。  このまま、ナイフを喉に突き刺して、ボクの時間も止めてしまいたい。そんな誘惑がふと頭をかすめたが、それを振り払う。  何が……何がいけなかったんだろう……  いや、分かってる。「何が」じゃない。全てが。  ボクが男だから。それは、決して越えられない壁。書き換えられない、現実。  ワンピースを着たら、振り向いてくれるかな。化粧も必要だろうか。  ボクから『男』を消せば、レント、キミはボクに振り向いてくれる?  動かなくなったレントを見下ろしながら、ポケットから取り出した情報端末――スマートリンケージに呼びかける。 「『上書き』、できるんだよね」  時計はそろそろ午前0時になろうとしていた。 『できなければ、どうするつもりだ』  手のひらの上の小さな機械から、無機質な声が返ってくる。男性とも女性ともつかない、抑揚もない冷たい声。 「別に。このままナイフをボクの喉に突き刺すだけだよ」  そう応じると、しばらくの間、部屋の中に静寂が流れた。まるで時が止まったかのよう。でも、スマートリンケージから発せられた声が、再び時を動かす。 『お前のような人間は初めてだ。今までの人間は皆、私の話すことを信じられずに終わった。なのにお前はそれを信じるだけでなく、利用しようとしている』 「御託は良いよ。できるの、できないの。どっち」  レントは……レントは必ずボクを、愛してくれるはず。いや、ボクを愛してくれるレントが、きっとどこかにいるはず。 『あくまで、バックアップデータを”上書き”するにすぎない。データは変更できない』 「いいよ、それで」  きっと見つける。だから待ってて。  ボクの、ボクだけの、レント。

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