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二人目のレント:セファの変身

――あんな女性に、というか、そもそもこの大学に女性の知り合いはいないんだが。  女性は明らかに、俺へと合図を送っている。うん、誤解ではなさそうだ。  不思議に思いつつも、その席へと近づいていった。 「すみません、あの、どなたですか」  もし本当に知り合いだったら随分と失礼な話かもしれないが、知らないものは知らないのだ。だから近づいてそう声をかけたのだが、その女性は一瞬驚いたような表情を見せた後、直ぐに笑顔になり「やあ、レント。やっと来たね、待っていたよ」と返事をした。 ――いや、まさかな。  そう思って、もう一度まじまじとその女性を見てみる。ずり落ちた眼鏡が『彼女』の鼻先に引っかかってた。『彼女』は、レンズの無い所から上目遣いに俺を見つめていたが、左手の指で軽く眼鏡を上げる。  そして俺は、目の前の『女性』が、まさに探していた親友のセファであることを確認した。 「いや、おい、ちょっと待て。お前、なんだよそれ」  俺は一体どんな目でセファを見つめているのだろうか。自分でも見当がつかなかったが、それを見たであろうセファは少し恥ずかしそうに目線を逸らした。 「に、似合わないかな」  ハスキーな女性の声とも、少し高い少年の声とも取れるような、不思議なセファの声。それは変わっていないのだが……昨日までは、ラフなTシャツとデニムのパンツ姿で、長い髪を後ろでくくっていた。ちょっと中性的な男の子、ただ単にそんな感じだったのだ。  それが今日は……なんでスカートなんだ?  それに、顔には随分と念入りに化粧が施されている。唇に塗られたピンクのリップとうっすら瞼を覆う青味がかったアイシャドーが、随分と激しい自己主張をしていた。

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