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二人目のレント:戻らない記憶
思い返せば、語学の授業でいつも一人、誰とも会話することなく座っていたセファに俺が声を掛けたのは、ただその前の講義のノートを上手く取れなかったからに過ぎない。俺とは対照的に、セファは講義のノートを几帳面に取る男だ。多分、男。
同じ法学部。履修している講義はかなりの数が同じもの。だから最初は、打算からスタートした友情だったかもしれない。
しかし俺たちは、それからの毎日をほとんど一緒に過ごしている。
人づきあいを面倒だと考えていた俺は、セファの他に友人と呼べる人物がほとんどいなかったから。そしてセファは、なぜか俺以外の人間と関りを持とうとはしなかったから。
だからだろう。まだ入学して三ヶ月しか経っていないのに、いつしか『親友』と言える仲になっていたのだ。
実家暮らしの俺と違って、セファはワンルームで一人暮らしをしている。大学近くにあるセファの部屋は、俺にとっては好都合な『別荘』だった。だからバイトがない時は、ほとんどの場合セファの部屋に行き、遊んだり勉強したり、時には泊まったりしている。
何せ一昨日も、セファの部屋で二人遊んだのだから。そして昨日も……
そこまで考えたところで、ふと、強烈な違和感が俺に襲い掛かった。
昨日、俺は何をしていたのだろう。それが未だにはっきりと思い出せない。
本当に、俺は昨日、セファの部屋に行ったのだろうか。それすらももう曖昧になっている。霞がかかったように、何かしらのイメージがぼんやりと浮かんでは、意味を為す前に消えていった。
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