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二人目のレント:誘いの言葉
「どうしたの?」
あらぬ方向に視線を固定してしまった俺を見て、セファがそう声を掛けてくる。
「あ、いや、昨日俺、何してたかなと思って」
それを聞いたセファは、食べていたサンドイッチを口から離し、噴き出すように笑った。
「何、それ。何も考えずに過ごしてたの?」
この反応……やはり俺は、昨日はセファの部屋にはいってないのだろうか。一緒にいたのなら、そのことを言ってくるはずだ。
「そういう訳じゃないと思うんだけどなぁ」
何となくごまかしがてら、自分のスマートリンケージを取り出し、何か手掛かりはないかと、メッセンジャーを見てみる。
「あれ? 昨日、メッセージくれてたんだな」
メッセンジャーに、セファからのメッセージが残っていた。『今から会える?』という一言。時刻は……午後八時を回ったあたりだ。
メッセージは既読になっていたから、見たはずなのだが、全く記憶に無い。
今朝、セファのメッセージに返信をした時には気付かなかったし、セファもそのことに触れてはいなかった。
「うん。でも返事がなかったよ」
「ごめん、なんでだろう。読んだことになってるんだけど、覚えがないな……ごめんな」
「ううん、大丈夫」
「でも昨日は、バイトじゃなかったのか?」
「昨日は休みだったんだ」
首をひねりながらの俺の言葉に、セファはそう言ってまた軽く微笑む。
「そっか。なんか用だったのか?」
「ううん、会いたくなっただけだよ」
その返事に、なぜか俺の心臓が飛び跳ねたような気がした。
「そ、そうか」
「ねえ、レント。授業が終わってから、何か用事ある?」
なぜだろう。セファと交わすいつもの会話のはずなのに、心臓が飛び跳ねたまま、飛び跳ね続けている。
「いや、何も」
ぶっきらぼうにそう答えて、再びカルボナーラを食べる手を動かし始める。
「そう。あのね、レント」
「な、なんだ」
止めなければ。
セファの次の言葉を止めなければ、何か『よくないこと』が起こる。そんな予感がするのだが、うまく言葉も出てこなければ、行動も起こせない。
そもそも、なぜそんな予感がするのか、自分自身説明が付かない。
なんとなく……ただ、なんとなく、心臓が飛び跳ね続けている。
そんな俺を、セファは少し潤んだ瞳で見つめ、ピンク色の可愛らしい唇を動かした。
「授業が終わったら、ボクの部屋、来るよね?」
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