13 / 50

二人目のレント:最適解

 食堂の中、俺とセファの傍を、次々と人が通り過ぎていく。皆、自分の用事に一生懸命で、他人を気にする様子はない。『他人』にはもちろん、セファも含まれている。 「で、でも、昨日まではそんなこと」  セファの恰好が昨日までとは全然変わってしまったところで、誰かがそれを気にすることも指摘することもない。 「言った通りだよ。自分に素直になっただけで」  少し肩をすくめて、セファはそう答えた。  朝起きたら無性にスカートをはきたくなったのだろうか。衝動に駆られて、クローゼットを開ける。そこにずらりと並んだ、衣装の数々……ってか、服、いつ買ったんだよ。 「そ、そうか」  そんなことはとても聞けそうにない。パンドラの箱が開きそうだ。 「嫌、かな」  一瞬、心の奥底でぞくっとする何かを感じた。 「な、何が?」 「ボ、ボクがこんな格好を、していること」  セファの声が心なしか震えている。いや、セファの声『も』というべきか。 「セ、セファがそうしたいって言うんなら、それで、い、いいんじゃないか?」  この場面で言うべき言葉の最適解など、教科書にも、大学受験の参考書にも、載ってはいないだろう。もちろん、大学で買った専門書にも。  無理やり作った俺の笑顔を、セファはどう見ただろうか。  セファは俺の言葉に、少し顔を横に倒しながら、微笑みで応えた。

ともだちにシェアしよう!