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二人目のレント:芽生えた感情
時間が止まったかと思った。いや、周りの人間は動き続けている。止まったのは、俺とセファ。それを無理やり動かす。
「そ、そうじゃない。ほら、でもさ、誰か知ってる人間に会ったらさ」
「嫌……かな」
セファが視線を地面へと落とした。
「嫌じゃない、嫌じゃない」
そう否定しながらも、『女を連れている』場面を誰か知り合いに見られると、色々と面倒なことになりそうだという思いは消えはしない。
それをセファに見抜かれているような気がした。
「セファはみんなに知られても平気なのか?」
「うん、ボクは平気だよ」
そう言ってセファが上目遣いに俺を見て、そしてぎこちない仕草で、少しずれかけてセファの鼻にかかっていた眼鏡を直しながら笑顔を作る。
何かが、心臓ではじけたような気がした。
いや、その『何か』がなんなのか、自分では解っている。学食で感じた、あの心の『もわもわ』だ。
俺の胸の中で騒いでいたもわもわがはじけ、そして今は――
午後の講義、そこで何を聴いたのか、ほとんど覚えていない。俺の心の中は、セファのことでいっぱいになってしまっていたからだ。
セファは男だ。どれだけセファが『心は女性』と言ったところで、セファは男なのだ。
俺は講義の間中ずっと、自分にそう言い聞かせ続けていた。
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