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二人目のレント:面倒な奴

「何って、セ……」  ……ファの部屋へ、と言いそうになって言葉を飲みこむ。 「女と一緒とは、お前も隅に置けんやっちゃな。秋水(あきみ)はどないしたんや」  俺が言おうとしたことには全く興味を示そうともせず、トウヤは、わざわざ俺の耳の近くに顔を寄せると、コソコソとそう囁いた。  トウヤは、俺の横にいる『女性』がセファだとは気付いてないらしい。俺が『彼女』を連れているとでも思っているのだろう。 「えーと、セファは、そうだな、どこに」  説明するのも煩わしい。トウヤの勘違いをそのままにしておこう。そう思ったのだが…… 「ボクはここにいるよ」  その俺の思惑をセファが見事に台無しにしてしまった。  声の主、俺の横にいた『女性』をまじまじと見つめた後、トウヤがその垂れた細い目を限界まで見開く。ついでに馬鹿っぽい口も。 「な、なんや、秋水かいな。おっどろいたわぁ」  長い黒髪はそれほど元の姿と違うことはない。しかしブラウスにスカート、そしてカチューシャと黒縁眼鏡。おまけに少し厚めの化粧とくれば、トウヤでは分からなかっただろう。  俺でも分からなかったのだから――分からないままでいてくれりゃよかったのに。 「あ、ああ、そうそう。今からセファと」  どこに行くことにしようか。 「さよか、さよか。そないなことやったんか」 「何がだよ」 「いや、分かっとる分かっとる。皆まで言わんでええ。なるほどなぁ。ワシはお前さんらの味方や。精一杯、応援したるから」  そう言うとトウヤは、俺の肩を両手でポンポンと叩いた。全く……『味方』などと自称する奴に碌な奴はいない。 「いや、多分お前、勘違いしてると思うぞ」 「隠さんかてええ。きょうび、そんなんはぎょーさんおるからな」  そんなんって、どんなんだよ。 「いや、だから違うって」 「いやあ、それにしても、秋水はえらい別嬪やったんやなぁ。レントにはもったいないわ」  セファに向けてそんなことを言うトウヤ。 「ありがとう」  その言葉に、セファは少し赤くなりながら俺に寄り添ってくる。ちょっと待ってくれ…… 「いやあ、熱いわぁ、熱いわぁ。四十度超えとんのとちゃうか。ほなワシはお邪魔なようやで、ドロンしますわ」  ニンジャポーズでいやらしい笑いを浮かべるトウヤ。その姿はまるで、年代物のオヤジのようだった。

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