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二人目のレント:リビングにて
部屋に入るとセファがクーラーをオンにする。もわっとした空気が漂うリビングの中に、冷たい風が吹き出した。
セファは顔を心持ち下に向け、上目遣いに俺の目を覗き込んでいる。その目はまるで……
その視線を引き剥がすようにセファから顔を背けると、キッチンの横に置いてある小さな冷蔵庫を開ける。
「お茶、貰っていいか?」
セファが軽くうなずくのを確認し、俺はペットボトルから冷えたお茶をグラスに注いだ。それをゆっくりと飲みほす。
その後で「飲むか?」とペットボトルを見せたが、セファは軽く首を横に振った。
「レントは、ボクの言うこと、信じてくれるかな」
突然、セファがそう口にする。
「なんだよ、いきなり。内容聞かないと、何が何だか分かんないぞ」
飲み終えたグラスを流しに置き、リビングへと戻った。
ベッドとテーブル、そして本棚があるだけの、白い壁紙に囲まれた部屋。本棚の上に置いてある時計は、午後五時半を指している。
一人暮らしの男性の部屋の割には、部屋に仄かな花の香りが漂っている。それをいつも不思議に思っていたが……
閉じられたクローゼットに自然と目が行ってしまった。あの中に、セファが買いためた『衣装』があるのだろうか。
いつものようにセファのベッドにもたれて床に座る。
「あの、銅像のことだよ」
つれてセファが俺の隣に座った。それもいつものこと。セファが眼鏡をはずしてテーブルに置く。それだけがいつもとは違った。
黒く長い髪がセファのうなじにかかっていて、目のあたりで切りそろえられた前髪の下から、セファの二重の目がどことなく切羽詰まったような様子で、俺を見つめている。
白いブラウスには簡単なフリルが付いていたが、一番上のボタンが外されていて、胸元から色白の肌が見え隠れしていた。
この部屋で二人顔を突き合わせ、遊んだり、映画を見たり、勉強したり。いつのまにかそれが『日常』になっていた。
しかしそれが、音を立てて崩れ始めている……
セファを今まで通りに見ることが、俺にできるだろうか。
セファは、俺を今まで通りに見るのだろうか。
セファは、女? それとも男? 親友? それとも……
と、セファがゆっくりと人差し指を俺の鼻へと近づけてくる。
それは時々セファがする仕草だった。俺の頬を指でつついたり、髪を触ったり、鼻の先を撫でたり。そんなセファの悪戯を嫌だと思ったことは一度もない。
それはセファが親友だからなのか、それとも、何か別のものだからなのか……
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