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セファ、壊れ始めた世界の底で
床に崩れ落ち動かなくなったレントから、赤黒い液体が広がっていく。まるで、全てを飲み込む沼のように。
ナイフを放り投げ、その沼に身を沈める。
また……ボクのレントじゃなかった。
でも、いい。
きっと、ボクのレントがいるはずだから。
ゆっくりと身を起こし、ハンドバッグからスマートリンケージを取り出す。バッグもスマートリンケージも、レントだった塊からにじみ出た血で、汚れた。
血まみれのアイテム。ボクにお似合いだね。
「聞こえているんだよね。もう一回、上書きしてよ」
手に取った情報端末に、そう呼び掛ける。
『何度しようが、結果は変わらない。上書きするデータは、同じものなのだから』
感情の無い無機的な声が、そう返事をした。
「そう? じゃあ、あの銅像のノイズは何。あんなもの、前はなかったよ」
『何者かが上書きに干渉した』
「へえ。誰が?」
『お前だ』
「じゃあ、結果が同じとは限らないよね」
『このまま繰り返せば、バックアップデータとカレントデータの乖離が修正不可能なほど大きくなるぞ』
「それで?」
『リセットが必要になるだろう』
「すべて『巻き戻す』ってこと? いいね、それ」
『ノイズとその原因を削除してのリセットだ。お前もデータから削除される』
すべてが無かったことに。このボクの存在さえも?
そんな世界を想像してみる。
ボクだけが、いない世界。
「いいね、それ」
自然と、笑みがこぼれた。
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